リモート時代に求められるリーダーの条件
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サマリー:リモート勤務の定着により、企業は優秀なリーダーを世界中から採用できるようになった。これは人材の質と多様性を高める大きな転機である。一方で、リモート下での文化醸成や部下との関係構築には、新たなスキルと工... もっと見る夫が求められる。本稿では、企業がこの利点を持続可能なものとするために、リーダーが意識すべきリモートマネジメントのポイントと実践例を紹介する。 閉じる

採用するリーダー人材の所在を本社近くに限定しない

 コロナ禍が始まり、世界中で職場のあり方が突然、劇的な変化を遂げてから5年が経とうとしている。区切りの年に振り返ってみると、この危機の中で目立たぬイノベーションが生まれており、それは今後長きにわたって企業に利益をもたらすと思われる。しかし、その利益を享受できるかどうかは、私たちがそれを賢明に維持できるかどうかにかかっている。そのイノベーションとは、世界のどこからでも優秀なリーダーを採用できるようになり、ホームオフィスや多くの従業員が集まる場所に縛られることなく、リモートで働けるようになったという考え方だ。

 たしかにコロナ禍が始まって以来、リモートハイブリッド働き方と、オフィス回帰の相対的なメリットについて議論されてきた。しかし、その議論は多くが従業員を念頭に置いたものであり、リモートで働くリーダーが受ける影響や、離れた場所から部下の仕事ぶりを監督しチーム文化を醸成する働き方が、どのように変わるべきかは考えられてこなかった。こうしたリーダーの働き方に対しては、課題が現実に存在するが、メリットもある。それを筆者は、さまざまな企業のリーダーシップアドバイザーを務める中で、目にしてきた。

 たとえば最近、ある本社部門の新任リーダーから、チームと協力して新たな事業推進戦略を考えるよう依頼された。筆者らはチームとの対面での大規模なワークセッションを計画していた。同社はニューヨークを本拠地にしていたため、筆者は彼女の配下のリーダーたちのほとんどが市内かその近くに住んでいると考え、そこでの開催を提案した。ところが彼女は反対し、移動距離が極端に長い人が出ないように、中間地点でやろうと言う。私が困惑していると、彼女自身はニューヨークで仕事をしているが、リーダーたちは、サンフランシスコ、スコットランド、フロリダ、香港、テルアビブ、ロンドンに住んでいると説明した。彼女の前任者が、各分野で最も経験を積んだ優秀な人材を獲得することを第一に考え、本社の近くに住むことを条件にしなかったという。彼女もチームのメンバーも、この選択によって部門が強化されたと口を揃えて言っていた。

 筆者はこの会話を通じて、リーダーシップチームが地理的に分散していることは珍しくなく、眉をひそめることでもないことを実感した。実際、クライアント企業の経営幹部や部門長の多くも本社やチームの近くに住んでいない。コロナ禍以前は、本社や支店から離れて暮らしている人は例外だった。この変化は早かったと、ニューヨークにあるエグゼクティブ人材紹介会社、ブリッジパートナーズの創業者の一人、トーリー・クラークは言う。「2019年3月以前は、当社が請け負ったリーダー求人で、住まいが本社の地域以外でも認められたのは、10件に1件程度でした。現在[2021年]はその数字が逆転しています。働く場所に特定の条件を付けているリーダー求人は、10件のうち2件くらいでしょう」。オフィス回帰の時代にあっても、エグゼクティブ人材の求人地域の拡大は続いている。その結果として人材プールの拡大は、トップ人材の大手リクルーター、JRGパートナーズによる2025年のエグゼクティブ求人トレンドの一つに挙げられている。

メリット

 企業は長年、マネジャーや幹部がチームや他のリーダーたちの近くにいなければ、監督業務やプロセスの調整、目前の問題の解決、会議への参加はできないと思い込んでいた。そのため、求人応募者はそのエリアにすでに住んでいる人か、引っ越してもよいという人に限られていた(会社から本社の近くへ引っ越すように言われていたら、この仕事は選ばなかっただろう、と最近、クライアントである上級幹部も言っていた)。

 コロナ禍はこの前提を覆した。リーダーたちは、チームや同僚と常に近い場所にいなくても、変わらず有能だったのだ。実際に、2023年の調査によれば、上司の近くにいない部下は、近くにいる部下よりも、会社の理念や直属の上司との結びつきが15%強かった。

 地理的な制約がなくなったいま、企業はその仕事に最適なリーダーをどこからでも見つけることができるため、応募者の幅が大幅に広がった。これまでなら転居が必要なために辞退される可能性のあった有能な人材にも、アプローチできるようになった。引く手あまたの「スター」リーダーの場合、この差は特に大きい。

 この変化はまた、リーダー自身がキャリアと人生をマネージする上で大きなメリットがある。管理職専門のあるリテインサーチ会社の代表者が指摘したように、多くの幹部は「いまでは仕事のために引っ越したがらず」、地域社会とのつながりを保ち、家族を混乱させたくないと考えている。そのためか、最近のアンケートでは、「ボス」(中間管理職、部門長、経営幹部)の68%が今後もリモートワークを続けたいと回答している。

反対意見

 リモートリーダーシップにはメリットがあるにもかかわらず、反発する意見も非常に多い。一つには、離れた場所から(本人のいないところで)部下を管理するためのリーダーシップスキルは難易度が高く、自然に身につくものではなく、ビジネススクールや企業大学ではめったに教わらないものだということがある。たとえば、リモートで部下を管理するリーダーは、まとまりのある文化の醸成、部下との絆の構築、社会的孤立やメンタルヘルスの管理、グループ間でのプロセス調整などを、どのように行うかを考えなければならない。2024年のあるアンケート調査で、マネジャーの70%が「対面のほうが監督しやすい」と回答したことからもわかる通り、どれも簡単ではない。

 リモートで働くリーダーはまた、部下や、影響力を行使しなければならない主要なステークホルダーの目に触れなくなり、「去る者日々に疎し」の状態に陥る可能性もある。どんなに仕事ができても、重要なタスクフォースや新しい任務に呼ばれなくなってしまう。そのため多くの場合、リーダーにとっては以前の働き方に戻るほうが楽で無難なのだ。

 しかし、リモート勤務のマネジャーにとって最大の足かせは、「リモートワークを認めると、文化、士気、生産性に悪影響を及ぼす」という通念だ。この点に関しては、筆者がこの1年間で話を聞いたCEOの多くが、「リモート勤務の従業員は生産性が基準を下回るか、会社の基本的な理念を理解していないか、やり取りが必要な他部門との関係を築いていない」と感じていた。このような文化的な懸念は、リーダーというより、ほとんどすべて実働部隊に関するものと見られるが、その多くが調査否定されている。それでも従業員にオフィス回帰を求めつつ、その上司を残業代の支給対象外とするのは難しい(それも起きているようだが)。そのため、リーダーを含めた従業員全員に、リモートワークを制限し、全日とは言わないまでも、少なくとも週に2~3日はオフィス出勤することを義務づけるのが「自然な流れ」となっている。米国の大企業の4分の3が取っているアプローチだ。

優れたリモートリーダーシップ

 私たちの集合的経験値はまだ限られているが、リモートマネジメントを本当に首尾よく行うために工夫すべきポイントをいくつか挙げたいと思う。

より意識的な計画と時間の使い方

 第一に、そして最も明白なことだが、リモートマネジメントは、出張が多くなり、在宅勤務やリモートワークが持つフレキシビリティという利点がいくらか差し引かれてしまうかもしれない。しかし、リーダーシップの視認性を高めるためには必要なことである。

 ここ数年付き合いのあるクライアント企業では、リモートリーダーは、(部下が出社しなければいけない日に)オフィスに姿を見せるだけでなく、他の上級幹部とのオフサイトのプランニングセッションや、定期的なグループミーティング、従業員との大人数の会議、クライアントミーティング、専門家会議などにも出向いている。いずれの出張にも、時間はもちろん、目的にかなう相手とつながり、適切なアジェンダを用意するための事前計画が必要だ。言い換えれば、リモートマネジメントには、実際の仕事と計画と検討が必要になる。定期的にオフィスに出勤するよりも、やることが多い。

 あるクライアントは、東海岸に住みながら、他の数カ所にいる大勢の部下を管理しているが、出張の際は、会議だけでなく、非公式の時間も念入りに予定を立てていると話していた。四半期ごとに各拠点でタウンホールを開催し、他のリーダーと情報を交換し、チームと自由な時間を過ごすという。また、各拠点に有能な事業リーダーと人事リーダーを配置し、このチームで、訪問前に時間を最大活用する方法を相談しているそうだ。

テクノロジーの活用と体制強化による業績管理

 視覚的情報や直接のやり取りがない状態で、リーダーが部下の仕事ぶりやアウトプットを確認するには、その努力が裏目に出ないように注意しながら、テクノロジーによって生成されるリポートや、事前にスケジュールされたオンライン会議に頼る必要がある。

 あるシニアリーダーは、毎週月曜日の朝、世界各地にいる直属の部下とオンライン会議を行っている。一人ずつ簡単に、主要な業績目標に関するアップデートと注意を要する問題を報告する。毎週、まとまった時間を取られるが、これをやることによって、チームが常に同期の状態を維持できている。

傾聴と関係構築

 リモートマネジメントの3つ目の違いは、チームメンバーや同僚一人ひとりが本当は何を必要とし、成功をどのように助けるかを理解するには、的を絞った努力が必要になることだ。チームや同僚と、日常的に直接接することによって、リーダーは部下のモチベーション、キャリア目標、強み、弱み、そして互いの関係性についてそれなりによく理解できるようになる。リモートでは、この接触はバーチャルなものとなり、頻度も減り、こうしたシグナルは弱くなる。

 これに対処するために、リーダーは、意図的に、意識的に部下と話し、部下の話を聞き、部下の成功を助ける方法を見つける必要がある。疑問や懸念があれば、それがどんなに些細なものでも先回りして声をかけ、1on1ミーティングをキャンセルせず、オンライン会議が始まる前か終わった後の時間を有効に使って関係を築き、悩みを聞き出そう。何より、仕事の話だけに留めないことが重要だ。相手の周囲やプライベートで何が起こっているのかを意識的に探ろう。

 ただし、こうした集中的な傾聴は、誰もが自然にできるわけではなく、マネジャーの中には苦手な人もいる。しかし、これなしでは、リモートマネジメントはうまくいかないかもしれない。

 たとえば、従業員の90%がリモートかハイブリッドで働いている保険大手のネーションワイドでは、文化と理念を伝えるために、リーダーたちにストーリーテリングの技術を教えている。また、リーダーには、チームメンバーに対して仕事だけでなく、メンバーがオフィス以外の場所で働いていると把握が難しい人生全般について話を聞くよう勧めている。同様に、大半の従業員がリモート勤務する金融アドバイザリー会社のエドワード・ジョーンズでは、たとえバーチャルなやり取りでも、リーダーたちに部下との関係構築に努力するよう指導している。人事責任者は、「耳を傾け、深く理解し、従業員のニーズに可能な限り応えられるようにすることです」と述べている。

 コロナ禍の経験は、リーダーをどこからでも採用できること、本社や事業所を拠点にする必要がないことを教えてくれた。しかし、拡大したリーダー人材プールを有効活用するには、リモートマネジメントには異なるスキルと規律が必要なことを認識しなければならない。そして、そのようなリモートリーダーシップスキルを開発しない限り、簡単にチャンスを逸してしまうだろう。


"The Pandemic Proved That Remote Leadership Works," HBR.org, March 12, 2025.