
-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
金銭的インセンティブによって営業行動を促すことのリスク
営業成績について話す時、上層部は主要な成功要因としてほぼ条件反射的に報酬を挙げる。これは、ほとんどのB2B企業で報酬が営業予算における最大の項目であることを考えると、驚くことではない。
しかし、営業担当者がまるで「コイン投入で動く機械」のように、金銭的インセンティブだけで動機づけられるという考え方は、時代遅れであり、営業職に対する軽視とも言える見解である。最悪の場合、リーダーによる的外れな指導や動機づけの原因となり、逆効果になる。誰もが報酬を必要としており、公正な報酬(コミッション、ボーナスなど)は非常に重要であるが、営業行動に影響を与える手段として金銭的動機を誤って用いたり、過剰に依存したりすることが多い。この10年間にわたる筆者らの現場研究から、一流の営業担当者は金銭的な動機だけで、またはそれを一番に動いているわけではないことが明らかになった。
ミシガン州立大学のヴァレリー・グッドの研究をもとに、数千人のセールスパーソンと数百の営業チームを対象に調査を実施した結果、金銭的報酬以外の目的意識、すなわち顧客のために価値を創出し、貢献することに重きを置く営業担当者は、単に目標やノルマの達成のみに注力する営業担当者よりも高い成果を挙げていることがわかった。
グッド博士のさらなる研究により、より高い目的意識を持つ営業担当者は、金銭的インセンティブを重視する営業担当者よりもレジリエンスが高く、長期にわたって継続的な努力を重ねていることも明らかになっている。
リーダーが戦略的なリーダーシップやコーチングではなく、金銭的インセンティブに過度に依存して営業行動を促すと、予期せぬ重大な結果を招くリスクがある。副作用として、短期的な取引型営業の助長、最適とはいえないビジネスの追求、望ましくないタイプの営業人材の獲得などの問題がしばしば見られる。
金銭的報酬は、注目や集中、努力を引き出す力にはなるが、報酬額を増やしたからといって、顧客からの信頼やビジネス獲得能力が高まるわけではない。営業担当者のパフォーマンスを向上させ、市場での価値を創出し、より多くのビジネスを獲得するための鍵は、効果的な営業リーダーシップである。
営業チームへのインセンティブに関するよくある3つの間違い
リーダーが営業成果を向上させるために、報酬に過度に依存する時によく見られる3つの間違いと、よりよい結果を生み出すためのアイデアを以下に説明したい。
1. 内部指標に基づく複雑な報酬プランを導入する
「指標が目標になると、それはもはや適切な指標ではなくなる」。これは、英国の経済学者に因んで名づけられた「グッドハートの法則」として知られている。ある指標の達成に対してインセンティブや報酬が設定されると、その指標は不正行為や制度の抜け穴の利用といった問題にさらされるようになることを示している。
この法則が最も明確に示された例が、いまや悪名高いウェルズ・ファーゴのクロスセル事件だ。マイケル・ハリスとビル・テイラーの論考「目先の数字に囚われて目標を見失っていないか」では、ウェルズ・ファーゴの従業員が顧客の同意を得ることなく、350万件もの預金口座およびクレジットカード口座を開設した経緯が記録されている。その結果、数十億ドル規模の罰金と訴訟が発生し、ウェルズ・ファーゴのブランドは深刻な損害を被った。
ウェルズの戦略は、顧客との長期的な関係を構築することであった。同行における口座数の増加は、より強く、価値ある顧客関係の指標となるはずだった。しかし、同行がインセンティブプランの主たる指標としてクロスセルを用いるようになると、営業行動は著しく悪化し、指標そのものが戦略となり、顧客との関係強化は後回しにされた。
営業担当者が、自身の報酬を最大化するために報酬制度の指標に適応しようとする中で、筆者らは、経営幹部であれば誰もが頭を抱えるような、さまざまな逆効果をもたらす行動を日常的に目にしている。
たとえば、的外れな顧客を追いかける、顧客に適合しない製品やサービスを提案する、将来の目標を達成するために現在の案件を意図的に遅らせる、既存の取引を放置して効果の薄い新規案件に注力する、あるいは価値の高い新たな機会を追求しない、といった行動である。営業担当者はしばしば、顧客や自社にとって最善の行動を取ることよりも、みずからの報酬を最大化することを無意識のうちに優先するように動機づけられている。
筆者らが関わったあるフィンテック企業では、最高収益責任者がリーダーシップの枠組みを導入し、営業担当者が顧客との関係において企業戦略を積極的に展開できるよう支援した。営業リーダーは、営業担当者がターゲット市場および理想的な顧客プロファイルに適合した適切なビジネスを確実に追求するよう努めた。営業チームに対して、適切なレベルの意思決定者と接触し、顧客のニーズを的確に把握し、最も高い価値を持つ提案を行うよう指導した。リーダーが戦略的に適合する案件の追求に継続的な注力を行った結果、初年度から2年目にわたって総売上高と契約更新件数が増加した。
リーダーは、営業担当者に達成させたい成果や結果に向けてチームを積極的に導くべきであり、偽造、歪曲、操作が可能で、逆効果をもたらすおそれのある指標に依存してはならない。
2. SPIFFで個々の商品の販売を促進する
SPIFF(Sales Performance Incentives Fund:売上奨励金)とは、特定の製品やサービスの販売を促すために用いられる短期的なインセンティブである。ただし、一般的には「特定の商品を売れば余分な報酬がもらえる仕組み」として認識されている。
SPIFFは、新製品や、なかなか売れ行きが伸びない製品の販売促進に最も多く用いられる。誰しも、自分のニーズに合っていないにもかかわらず、販売員が特定の製品やサービスに誘導しようとしてくる場面に出くわした経験があるだろう。
最近、自動車を購入した際、筆者の一人(マクラウド)は誤ってディーラーの休憩室に入り込んでしまい、販売チームが特定のモデルを売るようインセンティブを受けている場面を目撃した。当然ながら、販売員が彼女に最初に見せたのは、そのモデルであり、彼女が初めから伝えていたニーズをほとんど満たしていないものであった。
特定の製品の販売を促進すること自体は本質的に問題ではないが、販売員にインセンティブを与えることは、しばしば営業担当者と顧客との間に意図の不一致を生じさせる。SPIFFは、営業担当者の関心を顧客のニーズや目的の達成から、製品の押し売りへと逸らしてしまう。
これは取引型のビジネスでは一定の効果を上げるかもしれないが、顧客との長期的なパートナーシップ構築を目指す組織にとっては、むしろ逆効果となる。営業担当者がSPIFF対象の製品を積極的に売り込むと、顧客はすぐに自分がパートナーではなく単なるターゲットとして扱われていることに気づき、信頼は損なわれ、コンサルティング営業の道が失われるのだ。
営業担当者には、なぜその製品が開発されたのか、そしてそれがどのように顧客に貢献するのかを明確に理解させるべきである。製品が解決できる課題や活用可能な機会を特定し、それらの具体的なニーズと自社のソリューションを効果的に結びつける対話に持っていけるよう準備させるべきである。
筆者らが関わったソフトウェア企業は、顧客の在庫管理業務にかかる時間を削減する新しいモジュールをリリースした。同社は、顧客が現行プロセスに平均してどれほどの時間を費やしているか、そして新モジュールによってどれだけの時間を削減可能か明示する複数のケーススタディを作成した。販売ごとに、顧客がどれだけの時間を節約できたかを算出した。数カ月のうちに、その合計は数十万時間に達し、非常に説得力のあるセールスポイントとなった。
筆者らは多くの製品ローンチを通じて、SPIFFによって販売プロセスを短縮しようとするよりも、営業担当者に顧客のニーズに関する緊急性を強調し、製品やサービスが顧客の目標達成にどのように寄与するかに焦点を当てさせるほうが、はるかに効果的であることを実感してきた。
3. 値引きに頼ってビジネスを獲得する
「営業担当者にはCFOのように考えてほしい」とリーダーが語る多くの場合、それは営業担当者が商談を成立させるために値引きに頼っていることへの不満の表れである。値引きほど利益率を圧迫するものはない。しかし、販売量や売上高ではなく利益に報いるよう報酬体系を再設計したとしても、問題の解決には至らない。
ここでの根本的な問題は、営業チームが顧客に標準価格での購入を促すに足る価値を提供できていない点にある。これは戦略およびスキルの問題であり、営業チームが営業プロセスにおいて価値を創出する能力を高めることによってのみ対処可能である。
筆者らは、健全な利益率の維持に苦慮していたフォーチュン500のテクノロジー部門と協働した。この問題は、プライベートエクイティによる買収の可能性が高まるにつれて、ますます重要な経営課題となっていた。同社の営業チームが、取引を獲得するために値引きの特例を申請することは日常的に行われていた。
この問題を是正するため、売上高ではなく粗利益に基づいて販売報酬を支払うという方針が採用された。しかし、その後の1年間における営業行動や成果には、ほとんど変化が見られなかった。営業担当者は、取引を獲得するために依然として同じ頻度で値引きを行っていた。
要するに、現場で支配的だった考え方は、「何も得られない100%より、何かを得られる70%のほうがよい」というものであった。営業担当者が1件あたりの報酬を以前より少なく受け取っていたにもかかわらず、取引を獲得するために価格を下げるという依存的な姿勢は、インセンティブが変更された後も依然として根強く残っていた。
値引きを抑制するためには、営業プロセスの初期段階において、営業担当者に対するコーチングおよび戦略的な連携にいっそうの注意を払う必要がある。販売サイクルの初期段階は、顧客のニーズおよび目標を明確化し、それに対して自社の製品やサービスでどのように対応できるかを定める絶好の機会である。またこの段階では、適切なレベルの意思決定者と接触し、提供内容や支援の範囲を拡大することができる。
これに対して後期の段階では、ほとんどの意思決定はすでに下されており、営業担当者はわずかなマージンの交渉に終始することになる。販売サイクルの初期段階こそが、意思決定者への適切なアクセスを通じて、営業提案を顧客の目的とニーズに結びつけ、ソリューションの価値を定量化することにより、マージンを拡大できる最大の機会なのである。
* * *
報酬のインセンティブは、リーダーシップと営業コーチングの代替にはなりえない。営業組織を適切な優先課題に集中させるためには、経営陣は、戦略の実行があらゆる営業活動においてどのように体現されるべきかを明確に示し、営業マネジャーはチームがそれを現場で実行できるよう指導しなければならない。報酬を営業成果の主要な原動力として提示することをやめれば、顧客にも利益がもたらされる。なぜなら、営業担当者は顧客を欺くのではなく、積極的にその課題解決に取り組むようになるからである。
"3 Mistakes to Avoid When Setting Incentives for Sales Teams," HBR.org, April 01, 2025,