計画が行き詰まった時、リーダーが取るべき3つの行動
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サマリー:不確実性が常態化する今日のビジネス環境において、企業は予算削減や急速な技術進化への対応を迫られ、限られたリソースで成果を生み出すことを求められている。ある金融企業のリーダーの事例では、後ろ盾となるエグゼクティブの退社や予算縮小により、順調だった変革計画が崩れかけた。こうした局面で成功するリーダーは、当初の戦略に固執しない。彼らは「政治的資本の再構築」「レジリエンスの強化」「期待値の再設定」を実行し、現実に即して計画を立て直すことで危機を乗り越える。本稿では、その具体的な手法を提示する。

計画が崩壊しかけた時、リーダーに必要な行動

 今日の職場は不確実性が常態化している。経済的な逆風と不安定な株式市場の影響を受けて、企業は年度途中で予算の削減や再配分を迫られる状況が続いている。生成AIをはじめとする自動化技術は、多くのリーダーの予想を超えるスピードで、職務内容や業務フロー、企業の優先事項を再構築しつつある。その一方で、生産性向上の圧力と技術の急速な進歩に駆り立てられて、組織は限られたリソースと厳しくなるタイムラインの下、より多くの成果を求められ、取締役会や投資家の監視もいっそう厳しくなっている。

 世界経済フォーラムが指摘するように、ビジネスリーダーもこの不確実性から逃れることはできない。より高い適応力、協調的な行動、的を絞った投資によって、この状況に対応しなければならないのだ。これらのスキルは、今日の逆風を乗り切るだけでなく、長期的な組織のレジリエンスを構築するうえでも不可欠である。このような環境では、とりわけ有望な取り組みでさえ、前提条件が崩れれば停滞を余儀なくされるだろう。

 筆者らが助言した金融サービス企業でマーケティング担当上級副社長を務める「マリア」のケースを考えていこう。彼女が変革の取り組み──手作業のプロセスの自動化、AIを活用した分析の試験導入、大規模な顧客エンゲージメントのパーソナライゼーション──を始めた当初、その勢いは疑いようがなかった。最高戦略責任者(CSO)からの明確なスポンサーシップ(支援関係)と、パイロットプログラムの十分な予算と、部門を横断する熱意あふれるチームがあった。

 しかし、3カ月も経たないうちに状況は一変した。後ろ盾だったCSOが退社し、年度半ばで予測の見直しが行われて予算が削減され、新たな規制により事業計画の足元が揺らいだ。マリアの当初の計画は現実との整合を失ったが、成果に対する期待は変わらなかった。

 彼女は選択を迫られた。崩壊しかけた計画を押し通すか。それとも立ち止まって制約を再定義し、現実の事業環境に即した計画を再構築するか。

 筆者らは(エグゼクティブコーチ兼基調講演者のキャスリン・ランディスと、エグゼクティブアドバイザー兼リーダーシップ開発の専門家であるジェニー・フェルナンデス)金融サービスをはじめとする業界の経営幹部に助言とコーチングを提供しており、このようなシナリオを幾度となく目にしてきた。こうした局面で成功するリーダーは、最初の戦略に固執しない。むしろ、政治的資本の再構築、レジリエンスの強化、期待値の再設定という3つを実行する。その手法を見ていこう。

政治的資本の再構築

 マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、スポンサーシップを多様化して複数の擁護者と関係を構築しているリーダーは、一人の支援に依存している人よりも高いレジリエンスと長期的なキャリア資本を築く傾向がある。同様に、より広範な支援を得ることで、プロジェクトは環境の変化に対する脆弱性が低くなり、継続的に推進しやすくなる。スポンサーシップをリソースのポートフォリオとして捉え、多様性とバランスを重視して持続的に構築すれば、環境の変化に対するプロジェクトの強靭さは格段に高まる。

 マリアはCSOというスポンサーを失っても、新たに単独の支援者を探さなかった。代わりに「連合」をつくり、影のスポンサーによる三角体制を築いた。財務部門には信頼性、業務部門には実行、営業部門には顧客との整合性について支援を求め、それぞれのリーダーと週1回のペースで一対一のブリーフィングを行い、継続的な連携と可視性を確保した。

 さらに、CEO向けの資料を事前にレビューしてリスクを指摘してもらうために、同僚と小さな「キッチンキャビネット」(助言グループ)をつくった。こうした動きは彼女の権限を守るだけでなく、一人のエグゼクティブに依存しない強固な後ろ盾を生み出した。

 一方でマリアは、組織の機能不全を予想して、チームとプレモーテム(事前検証)を実施した。「いまから90日後、このイニシアティブが行き詰まっているとしたら、何が起きたのだろうか」と問いかけ、失敗の要因を洗い出したのだ。チームからは優先順位の変動、承認の遅れ、責任の所在の曖昧さなどが挙がり、これらをもとに意思決定の権限と説明責任を明確化した。さらに、チームは障害ログを使って、繰り返し発生する障害を記録し、毎週最も多い2件をリーダーシップレベルで共有し対応することにした。こうして組織の機能不全を、個人の責任ではなく、共有して解決すべき課題に転換した。

レジリエンスの強化

 レジリエンスの高いリーダーは、現状が続くことを前提にせず、衝撃を吸収できるシステムを構築する。実践的なツールと指針になる問いを通じてレジリエンスを根づかせることにより、リーダーはこれらの原則をシステムに組み込むことができる。目標は混乱を耐え抜くことだけではなく、それをはるかに超えて持続する組織の強さを構築することにある。

 レジリエンスに万能の処方箋はない。レジリエンスは内省、優先順位の再設定、準備を組み合わせながら築かれるものだ。

 マリアも自身の状況に対処するために3つのツールを特定した。ツールはそれぞれ異なる目的を持ち、単独でも、あるいは任意の順番でも活用できるが、組み合わせることで互いに補強し合うループを形成する。

 マリアは「状況の台帳」を活用し、停滞していた変革イニシアティブを再評価した。現状、変化したこと、影響、必要な意思決定を整理してみると、変革は失敗しているのではなく、異なる条件の下で進行していることが明確になった。

 続いて、活動を再設計するフレームワーク「ストップ・スタート・スケール・グリッド」を用い、イニシアティブの勢いを取り戻す方法を考えた。この検証をもとに、見せかけだけのキャンペーンをやめて、顧客導入の改善を始め、効果のあった顧客維持のパイロットプログラムを拡大するという方針を打ち出した。新しい取り組みの多くは分析部門からリソースを借りたり、ベンダーと再交渉したりして、限られた資金を最大限に活用した。

 次に、マリアは世界経済フォーラムのレジリエンスフレームワークを参照して自己診断の基準をつくった。不確実な時代には次の4点を自問する。

・決意:自分のパーパスを明確に理解して、状況が変わってもそれを守る準備ができているか。
・コミュニケーション:優先順位とトレードオフを、チームやステークホルダーに対して可視化しているか。
・敏捷性(アジリティ):前提が変わっても迅速に適応できるか。そのためのシナリオを演習しているか。
・エンパワーメント:チームはトップダウンの承認を待たずに行動できる権限と信頼を与えられているか。

 これらのツールのうちどれかを、あるいはすべてを使うにしても、目標は同じだ。不確実性を洞察へと変えて、前進の勢いを再び生み出すことである。レジリエンスは静的な特性ではない。設計して、テストして、時間をかけて強化するシステムなのだ。

期待値の再設定

 チームに対して明確な期待を設定することは重要である。ギャラップの調査によると、「職場で自分が何を期待されているかをしっかりと理解している」と答えた従業員はわずか47%で、この不明確さは、エンゲージメントの低下と不信感の最も強い予測因子の一つでもある。リーダーが期待を明示すると、従業員のエンゲージメントとパフォーマンスは大きく向上する。

 チームとの「再契約」は、基準や野心を引き下げるものではない。不確実性の中で、明確さ、整合性、信頼性をつくり出すためのものだ。新たな条件の下で成功とは何かを再定義することにより、チームは混乱から自信へと前進できる。役割と責任の明確化、チーム規範の再設定、目標と成功指標の再定義というステップを怠るリーダーは、時代遅れの前提に固執したまま、信頼を損ない、チームをバーンアウトさせるおそれがある。

 2016年に掲載されたクローバーポップ創業者であるエリック・ラーソンの記事「意思決定のスピードと精度を高める7つのステップ」をもとに作成した意思決定のチェックリストは、こうした対話を構造化する実用的な手段となる。このツールは個人の内省ではなく、チームの演習に適している。各質問をリーダーとチームで議論しながら、前提条件を確認し、盲点を可視化して、共同で合意を形成していく。四半期ごとに、あるいは組織再編やリーダーの交代、新しい戦略方針など、大きな変化が生じた際に活用できる。

 このチェックリストは単純なイエス、またはノーの質問ではなく、それぞれの要素がどのくらい明確に定義されているか、さらに明確化が必要なのはどこかを、チームで議論させる。たとえば次のような質問を用いる。

・状況がどのように変わり、それが優先順位にどう影響するか。
・現時点で最も実現可能性が高い2~3の道筋はどのようなものか。
・どのような情報が不足していて、それをどう補っていくか。
・どのようなトレードオフや影響(予算、リスク、顧客への影響)を可視化すべきか。
・どの提言やステップを実行し、いつ進捗を再確認するか。

 マリアもこの手法をチームで用いた。そして、計画が遅延している説明に追われる立場から、戦略的にトレードオフを行う姿勢へと変化し、何が最も重要で何を後回しにできるかをチームで共有するようになった。このプロセスを通じて、マリアはリソースと信頼を思慮深く守るリーダーとしての地位を確立した。

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 スポンサーは組織を去り、予算は縮小され、規制は変化する。今日の変動が激しい環境で、成功の条件が一定であることはほとんどない。その中で生き残るリーダーは、最初の設計に固執する人ではない。「連合」を広げ、レジリエンスをシステムに組み込み、現実に合わせて期待を再設定できる人だ。

 マリアが野心的な変革から、焦点を絞って基本に立ち返ったマーケティング戦略へと軸足を移したことは、彼女の計画を救っただけではない。適応力を示し、信頼を強化し、リーダーシップチームの中でより強い発言権を得た。不確実な時代に持続するのは、まさにそのようなリーダーシップである。


"How to Lead When the Conditions for Success Suddenly Disappear," HBR.org, October 13, 2025.