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計画が崩壊しかけた時、リーダーに必要な行動
今日の職場は不確実性が常態化している。経済的な逆風と不安定な株式市場の影響を受けて、企業は年度途中で予算の削減や再配分を迫られる状況が続いている。生成AIをはじめとする自動化技術は、多くのリーダーの予想を超えるスピードで、職務内容や業務フロー、企業の優先事項を再構築しつつある。その一方で、生産性向上の圧力と技術の急速な進歩に駆り立てられて、組織は限られたリソースと厳しくなるタイムラインの下、より多くの成果を求められ、取締役会や投資家の監視もいっそう厳しくなっている。
世界経済フォーラムが指摘するように、ビジネスリーダーもこの不確実性から逃れることはできない。より高い適応力、協調的な行動、的を絞った投資によって、この状況に対応しなければならないのだ。これらのスキルは、今日の逆風を乗り切るだけでなく、長期的な組織のレジリエンスを構築するうえでも不可欠である。このような環境では、とりわけ有望な取り組みでさえ、前提条件が崩れれば停滞を余儀なくされるだろう。
筆者らが助言した金融サービス企業でマーケティング担当上級副社長を務める「マリア」のケースを考えていこう。彼女が変革の取り組み──手作業のプロセスの自動化、AIを活用した分析の試験導入、大規模な顧客エンゲージメントのパーソナライゼーション──を始めた当初、その勢いは疑いようがなかった。最高戦略責任者(CSO)からの明確なスポンサーシップ(支援関係)と、パイロットプログラムの十分な予算と、部門を横断する熱意あふれるチームがあった。
しかし、3カ月も経たないうちに状況は一変した。後ろ盾だったCSOが退社し、年度半ばで予測の見直しが行われて予算が削減され、新たな規制により事業計画の足元が揺らいだ。マリアの当初の計画は現実との整合を失ったが、成果に対する期待は変わらなかった。
彼女は選択を迫られた。崩壊しかけた計画を押し通すか。それとも立ち止まって制約を再定義し、現実の事業環境に即した計画を再構築するか。
筆者らは(エグゼクティブコーチ兼基調講演者のキャスリン・ランディスと、エグゼクティブアドバイザー兼リーダーシップ開発の専門家であるジェニー・フェルナンデス)金融サービスをはじめとする業界の経営幹部に助言とコーチングを提供しており、このようなシナリオを幾度となく目にしてきた。こうした局面で成功するリーダーは、最初の戦略に固執しない。むしろ、政治的資本の再構築、レジリエンスの強化、期待値の再設定という3つを実行する。その手法を見ていこう。
政治的資本の再構築
マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、スポンサーシップを多様化して複数の擁護者と関係を構築しているリーダーは、一人の支援に依存している人よりも高いレジリエンスと長期的なキャリア資本を築く傾向がある。同様に、より広範な支援を得ることで、プロジェクトは環境の変化に対する脆弱性が低くなり、継続的に推進しやすくなる。スポンサーシップをリソースのポートフォリオとして捉え、多様性とバランスを重視して持続的に構築すれば、環境の変化に対するプロジェクトの強靭さは格段に高まる。
マリアはCSOというスポンサーを失っても、新たに単独の支援者を探さなかった。代わりに「連合」をつくり、影のスポンサーによる三角体制を築いた。財務部門には信頼性、業務部門には実行、営業部門には顧客との整合性について支援を求め、それぞれのリーダーと週1回のペースで一対一のブリーフィングを行い、継続的な連携と可視性を確保した。
さらに、CEO向けの資料を事前にレビューしてリスクを指摘してもらうために、同僚と小さな「キッチンキャビネット」(助言グループ)をつくった。こうした動きは彼女の権限を守るだけでなく、一人のエグゼクティブに依存しない強固な後ろ盾を生み出した。
一方でマリアは、組織の機能不全を予想して、チームとプレモーテム(事前検証)を実施した。「いまから90日後、このイニシアティブが行き詰まっているとしたら、何が起きたのだろうか」と問いかけ、失敗の要因を洗い出したのだ。チームからは優先順位の変動、承認の遅れ、責任の所在の曖昧さなどが挙がり、これらをもとに意思決定の権限と説明責任を明確化した。さらに、チームは障害ログを使って、繰り返し発生する障害を記録し、毎週最も多い2件をリーダーシップレベルで共有し対応することにした。こうして組織の機能不全を、個人の責任ではなく、共有して解決すべき課題に転換した。






