なぜ職場でAIを使うほど、同僚からの信頼を失うのか
Illustration by Erik Carter
サマリー:AIが職場の人間関係に入り込み、人と人のつながりを揺るがしている。便利さの一方で、対人関係をAIに置き換えると、職場に不可欠な信頼や関係性を損なうおそれがある。そこで本稿は、懸念点を整理しつつ、AIの活用が人間的なつながりを損なわないための判断基準を示す。

AIが職場の人間関係を変える

「同僚からロボットが書いたようなメールが来た」

「上司がAIを導入したが、少し使いすぎている気がする」

「もう誰と話しているのかわからなくなった。同僚なのか、同僚のGPTなのか」

「相手が生成AIのほうが感情的にならない分、仕事がしやすい。本物の同僚はもういらないかな」

 この数カ月間に筆者に寄せられた懸念や疑問だ。職場での厄介な人間関係について書いたり話したりしているせいか、悩み相談が数多く届く。AIはついに職場トラブルの火種にまでなりつつある。

 雇用主やテクノロジーの専門家、未来学者たちは、仕事でAIを活用することを奨励し、より多くのアイデアの創出、生産性や効率性の向上が可能になると約束した。一方で、AIの活用は以下のようなさまざまな疑問を呼んでいる。

・真正性(「同僚がAIを使ってメールを書いているとしたら、私は同僚と機械のどちらと話しているのだろうか」)

・信頼性(「AIを使ったとわかる同僚の仕事を信用してもよいのだろうか」

・同僚との真のつながりとは何か(「いまでは同僚よりもAIと仕事をしたほうが楽だ」)

 しかし、AIを特に職場の人間関係の仲介役、ましてや代わりとして利用することは、私たちが必要としている職場でのつながりそのものを損なう可能性がある。確かに、受動的攻撃を取る同僚や、野心的な同僚への感情を排した返信を作成し、せっかちな同僚のために短時間でレポートをまとめ、競争心の激しい同僚にプロジェクトの成功をすべて自分の手柄にしてはいけない理由を説明するのに使いたくなる気持ちは理解できる。しかし、こうした利用には深刻な懸念もある。

 本稿では、AIと職場の人間関係に関して、筆者が最も懸念している点を挙げた後に、AIを利用するメリットよりもデメリットが勝らないように、会社やチームでAIと、いつどのように協業するかを判断するためのガイドラインを紹介したい。

AIを職場の人間関係に持ち込む代償

 AIの導入によって生産性と創造性を追求する中、私たちはAIが職場の力学に与える影響についてあまり考えてこなかった。筆者は、AIがもたらしている問題を次のように見ている。

認知的負荷が増大する

 相手が人間なのか、AIを利用している人間なのか、単にAIなのかがわからないと、なぜ相手の文調が変わったのか、なぜその人らしくない言葉やフレーズを使っているのか悩み、時間と労力を費やすことになる。それでも結局わからないことも多い。

 このちょっとした感情労働は積み重なる。「相手は人間なのか、そうではないのか。人間と話していると思い込んでいたのに、実は人がAIを使ってメールを書いていたら、それをどう受け止めればよいのか。返信の仕方を変えるべきなのか。やめてもらうよう頼むべきなのか」

 AIと人間のつながりについて研究し、最近ではポッドキャスト「Me + Viv」でこのテーマについて発信しているテクノロジーの専門家、アレクサンドラ・サミュエルに話を聞いた。「AIの可能性があるという事実が、相手との関係性を疑わせる」と彼女は言う。研究結果もこれを裏づけている。人は、AIが使われたと疑う(かそう告げられる)と、関係性そのものを疑い、相手が手を抜いているのではないかと疑うようになる。

効率化ではなく「ワークスロップ」を生む

 2025年に掲載され、注目を集めた論考「AIが生成する『手抜き仕事』で同僚の仕事を増やしていないか」の中で、研究者らは、同僚のAI利用が癪に障る理由の一つとして、すでにノイズの多い職場に、さらに無意味なノイズを増やしているからだと説明した。忙しく見せるためだけの仕事、不要な会議、スラックのメッセージで済むはずのメール──この上さらにロボットのようなやり取りを加えたいだろうか。

 論考の著者らが説明するように、「ワークスロップ(手抜き仕事)を受け取った従業員は、内容を解読し、ずれや不足部分を推測する作業を強いられる。手直しや同僚との気まずいやり取りを含め、労力を要する複雑な意思決定プロセスに連鎖的に巻き込まれる」

 要するに、効率化を約束するAIを何も考えずに使えば、仕事の負担は減るどころか増大し、その非効率によって人間関係が悪化する。あなたの部下は、生成AIのおかげでその報告書を記録的速さで仕上げられたかもしれないが、今度はあなたか別の部下がその価値を判断し、情報源を確認し、なぜ期待に沿わないのかを、部下に説明する時間を費やすことになるのだ。

信頼が損なわれる

 ワークスロップに関する調査では、AI生成コンテンツが同僚に対する認識に及ぼす影響について、懸念すべき結果が明らかになった。研究者らが書いているように、「調査対象者の約半数は、ワークスロップを送ってきた同僚の創造性、能力、信頼性を、受け取る前よりも低く評価した。42%が相手の信憑性、37%が相手の知性に対する評価を下げている」

 さらに懸念されるのは、回答者の3分の1がワークスロップを他者に報告しており、「送り手と受け手の間の信頼を損なう可能性がある」点だ。また、同数の回答者がその同僚とは今後一緒に働きたくないと回答している。

 他の研究者も同様の研究結果を得ている。つまり、共同作業において自分の業務にAIを使用することには社会的コストが伴う。AIを使用していると見なされた人は、他のツールの力を借りている人より能力が低く、怠慢だと見なされていた。

本来必要な摩擦が排除される

 筆者は、人がよい仕事をするには、緊張関係や不毛なやり取りが必要だと強く信じている。摩擦や議論、時には行き違いさえ、システム上のバグではなく、特徴といえる。人はそうやって協力し、理解を深め、よりよいものをつくり上げる。ハーバード・ビジネス・スクール教授のリンダ・ヒルは、自身の研究の中でこれを、議論や討論を通じて新たなアイデアを創出する能力、「創造的研磨」(creative abrasion)と呼んでいる。

 ボストン大学クエストロム・スクール・オブビジネス研究准教授のコンスタンス・ハドリーとカンタベリー大学ビジネススクール教授のサラ・ライトは最近、AIを日常的に利用するナレッジワーカー1500人以上を調査したところ、多くの従業員が難しい対人関係に対処するために、AIをパーソナルコーチとして利用していることを認めた。調査対象者は、対立の原因特定やフィードバックの伝え方の相談、難しい会話のロールプレーにAIを利用すると回答した。それによって相手とのやり取りが円滑になるかもしれないが、人間関係の管理をAIに委ねてしまうと、重要な摩擦が生じず、ブレークスルーのきっかけを失う可能性がある。問題を新たな角度から見ることを促す生産的な意見の相違が失われる。本来効果的な共同作業を可能にする人間らしい混乱が失われるのだ。

 ハドリーは、潜在的なデメリットをもう一つ指摘している。「対立の原因を特定し、それに対処する個人的な能力を失う可能性がある。この二極化の時代に、誰もが失うわけにはいかない能力である」

真の関係が築けなくなる

 私たちは、この人間関係のゴタゴタを通して関係を構築する。人との関係が何もかも円滑に進むと、気持ちはよいが、必ずしも成長したり絆が深まったりするわけではない。気まずい瞬間や、弱さを見せること、誤解を解消する過程こそが互いや自分自身の理解を深めるのだ。

 アレクサンドラ・サミュエルが語ってくれたように、メールの過剰な負荷に対処するために、人間関係の仕事をAIに委ねたら、時間は節約できても、同僚と距離ができるおそれがある。

 ニューロリーダーシップ・インスティテュートのデイビッド・ロックなどの専門家は、脳に与える影響についても警鐘を鳴らしている。ロックは最近の記事で、AIは社会的インタラクションやコミュニケーションを促す脳間同期を低下させると指摘している。人間よりAIに頼るほど、他者との関係が弱まる傾向が強まる。

礼儀正しさを失わせる

 人間の同僚よりAIと協業するメリットとして、相手の反応や感情に配慮する時間を減らせることを挙げる人もいる。チャットGPTに「ありがとう」と言ったり、ジェミニに「おはよう」とあいさつをしたりするが、実際にはその必要はない。それに、いまでは十分に立証されている通り、ほとんどの生成AIプログラムは、その人が求めている答えを返してくれる。そうでない場合は、指示を変えればそれで済む。望む結果を得られないAIをプログラムし直せるということは、何を意味するだろうか。私たちは人間の協業者にも同じことを期待するようになるだろうか。同意しない相手に、忍耐強く対応しなくなるだろうか。AIに対する振る舞いが人間の同僚に対する振る舞いに波及する可能性は高い。

AIが実際に役立つ場面

 筆者は仕事や職場の人間関係において、AIがまったく必要ないと言っているのではもちろんない。しかし、AIをいつどのように使用するかについて、特に同僚との関係においては、もっと意識する必要があると考えている。

 ワークスロップに関する論考の著者の一人、ケイト・ニーダーホッファーは、ラジオ番組「マーケットプレース」でこう述べている。「最も重要なことは、私たちがいまも働いているということを認識することです。働き方は変化していますが、私たちはいまも他の人々と一緒に仕事をしているのです」

 以下は、私自身が他者に関わる問題を解決する際に、AIをいつどのように利用してよいかを判断するために用いている指針である。

AIを使用したことを明かす

 そうすることによって従業員の認知的負荷を軽減し、誰(何)と話し、協業しているのかを考えなくて済むようにするのだ。最近、あるビデオの制作で、撮影の際に筆者にする質問を、スタッフがAIを使って作成した。その彼から受け取ったインタビューのプランには、「質問のアイデアと構成でチャットGPTの力を借りました」というメモが添えられていた。私としてはこれは理想的だった。なぜなら、質問を確認した際、書きぶりが彼らしくなく、トピックから外れた質問も一つあったが、その理由を推測する必要がなかったからだ。AIの使用を正直に明かせば、同僚の認知的負荷を軽減できる上、ふだんより仕事の質が低かったとしても、互いに対する認識を下げることを避けられる。

 あなたが上級リーダーなら、組織の人々にも透明性を保つよう奨励すべきだ。開示は例外ではなく、当たり前のことだという認識を示すのである。

 重要な注意点がある。なかにはAIを「環境調整」(いわゆる合理的配慮)のために使用する人もいるかもしれない。アレクサンドラ・サミュエルがこの点を指摘している。「ディスレクシア(読字障害)や、メール作成が困難な同僚がいる場合、AIの活用でコミュニケーションにかかる時間を4分の1に短縮できる可能性があり、その分、互いにとって重要な業務に時間を充てることができるようになります」。このケースに当てはまり、開示することに抵抗がなければ、そうすべきだ。透明性は重要だが、なぜその人がAIを利用するのかは、文脈によって認識を変える必要がある。

AIの使用は取引関係での利用に限定する

 やり取りが純粋に取引のみで、相手との関係を構築ではなく維持したい場合には、AIが有効だ。たとえば業者が自宅の工事で約束通りの仕事をしていない時、厳しいメールを書くために利用するのは妥当だろう。だが関係を構築したい仕事仲間とのやり取りは別だ。

 信頼を高め、絆を強めたい時に、AIが役に立つ可能性は低い。このやり取りはタスクを遂行するためか、関係構築のためか、自問しよう。後者なら、AIを脇へ置き、同僚と直接関わろう。

人間関係を置き換えるためでなく、強化するために使用する

 AIを同僚とのやり取りの代わりと見なすのではなく、実際の人々とつながるために役立たせる。新しいチームメンバーと関係を築くためのアイデア、1on1ミーティングでの会話の切り出し方、職場でのあなた個人の支持基盤を強化する方法などを質問する。目標はハドリーが説明するように、「AIを目的地ではなく、架け橋として利用すること」だ。あなたに同僚との関わりを促すようAIツールを設定することもできる。たとえば、あなたのカレンダーを見渡し、空いている時間を見つけ、少なくとも週に一度、あなたが同僚をランチか午後の休憩に誘うようリマインドさせるのだ。

人間とAIには別の規範を適用することを肝に銘じる

 対面の会話と、AIとのやり取りに、自分としてどう向き合うかを明確にしておく価値はある。書き留めると、なおよいだろう。「同僚に対しては礼儀正しく、協力的でありたい。AIに対しては実務的、効率的に接したい」。この区別を明確にすると、AIでの習慣(良いものも悪いものも)が意図せず人間との関係に波及するのを防ぐことができる。

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 筆者は結局、この結論にたどり着く。「職場での人間関係こそが大事だ」。それが私たちの幸福、生産性、やりがいを高める。そのおかげで私たちは困難な時を耐え、よい時を祝うことができる。それは、何千もの混沌として気まずく、完璧でない小さなやり取りの積み重ねによって築かれる。

 そのやり取りをAIに任せたり、仲介させたりするのは、単に時間や摩擦を減らす行為ではなく、つながりを生み出す瞬間そのものを外部委託することだ。人間だけができる人間関係の仕事を機械に委ねることなのだ。

 だから今度、同僚宛にメールを作成する際は、「生成する」ボタンを押す前に自問しよう。「自分はいま本当は何を達成しようとしているのか。AIはその役に立つのか、妨げになるのか」と。


"How AI Damages Work Relationships - and Where It Can Actually Help," HBR.org, March 02, 2026.