言ってみれば、第1ステップは軸を定めることであり、第2ステップは軸に目盛を刻むことになる。この軸と目盛を定義したものを、コンピテンシー辞書と呼ぶ。これによって、人材の能力を定量的に可視化することができ、また同じ軸と目盛(つまり、同じコンピテンシー辞書)を使うことで、あたかもメートル法のモノサシを使うがごとく、世界中のどこでも同じ基準で、人材能力の可視化が可能となるわけである。

 ヘイグループには、さまざまな標準的なコンピテンシーモデルが存在し、また企業向けに独自のコンピテンシーモデルを構築することも多い。例えば、標準的なコンピテンシーモデルの1つに、シニアマネジメントモデルというものがある。これは、グローバルの様々な企業の執行役員・上級部長クラスの高業績者の研究から生まれたものである。リーダーシップや問題解決、業務遂行、対人関係に関する14のコンピテンシーから構成され、グローバルの高業績者の発揮度をベンチマーク水準として対比もできる。

 1例として、あるグローバル企業の各国の経営幹部候補者に対して、シニアマネジメントモデルを使ってコンピテンシー評価をしたときの結果を見ていただこう(図2)。この方の場合、ほとんどのコンピテンシーについて、グローバルの執行役員・上級部長の高業績者の水準(ベンチマーク水準)と同等かそれ以上のコンピテンシーが観察されている。つまり、他のグローバル企業の幹部と比較しても、相当高いコンピテンシーを持っており、グローバル経営幹部として活躍される可能性は高いと言える。

 もちろん、幹部登用にあたっては、本人の経験や業績、会社のカルチャーとのフィットなど、様々な要素を総合して意思決定する必要があり、コンピテンシーだけで判断できるものではない。しかし、世界各国の人材を、同じモノサシで評価できる価値は計り知れない。ましてや、その評価が、数時間のインタビュー等によって可能となれば、なおさらであろう。今、日本企業の多くは、円高をチャンスととらえ、M&Aを加速している。企業買収によって優秀な人材を手に入れたのに、誰が優秀人材なのか、どの程度優秀なのかが分からなければ、人材マネジメントもやりようがない。その意味でも、コンピテンシー評価は、大きな武器になり得る。