リーダーの思考構造を歴代米国大統領で分析・比較してみる:レクティカ理論で読み解く意思決定の質
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サマリー:企業では戦略が現場で機能しない、議論がかみ合わないといった問題がしばしば起こる。この背景には、知識量ではなくリーダーと部下の「思考の構造」(複雑性のレベル)の違いがある。米国の発達測定機関レクティカが提唱する理論は、この思考の構造を測定・可視化する枠組みだ。本稿では、歴代米国大統領の分析例も紹介しながら、レクティカの段階モデルを用いて、リーダーシップの限界を乗り越え、また部下の思考レベルを一段引き上げるための実践的な問いを提示する。

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複雑な問題に対処する「思考の構造」が
リーダーシップを左右する

 これまで本連載では、カート・フィッシャーの理論を通じてスキルの構造を捉え、ロバート・キーガンスザンヌ・クック=グロイターの理論を通じて意味づけの枠組みの発達を見てきました。これらはいずれも、人の成長を理解するうえで極めて重要な視点です。しかし、実務の現場に目を向けた時、もう一つ見落とされがちな問いがあります。それは、「人は実際にどのような構造で考えているのか」という問いです。

 企業の現場では、しばしば次のような現象が起こります。戦略としては正しいはずの方針が、現場ではうまく機能しない。会議では同じ言葉を使っているにもかかわらず、議論がかみ合わない。あるいは、複雑な問題に直面した時に、必要以上に単純化された結論に飛びついてしまう。このような問題は、知識や経験の不足として説明されることが多いですが、それだけでは十分ではありません。

 こうした現象の背景には「思考の構造」の違いがあります。つまり、何を知っているかではなく、どのような構造で物事を捉え、関係づけ、判断しているのかという違いです。同じ情報を持っていても、それをどのように整理し、どのレベルで統合するかによって、導かれる結論は大きく変わります。この意味で、リーダーシップの限界は知識量ではなく、思考の構造によって規定されているといえます。

 米国マサチューセッツ州にある発達測定機関のレクティカ(Lectica)の段階モデルは、この「思考の構造」に焦点を当てた理論です。セオ・ドーソンらによって発展されたこの枠組みは、人が実際の状況の中でどのような複雑性のレベルで思考しているのかを測定し、その発達を捉えようとするものです。ここで扱われるのは、抽象的な能力や潜在的な可能性ではなく、「実際に発揮されている思考の複雑性」です。

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 この視点は、従来のリーダーシップ観に重要な修正を迫ります。多くの場合、優れたリーダーとは「知識が豊富である」「判断が速い」「経験が豊かである」といった特性で語られてきました。しかしレクティカの視点から見ると、より本質的なのは、「複雑な現実をどのレベルの構造で扱うことができるのか」という点です。現実を単純な構造でしか捉えられないのであれば、いかに優れた知識を持っていても、そこにはおのずと限界が生じます。

 特に現代の組織においては、扱うべき問題そのものが高度に複雑化しています。市場環境は不確実であり、複数の利害関係者の視点が絡み合い、短期的な成果と長期的な持続可能性が常に緊張関係にあります。このような状況においては、単一の視点や単純な因果関係に依存した意思決定では対応しきれません。必要とされるのは、複数の要素を同時に捉え、それらの関係性を統合しながら判断する力です。

 したがって、本稿で扱うレクティカの段階モデルは、単なる理論の紹介ではありません。それは、リーダーが直面する現実の複雑さに対して、みずからの思考がどの程度適応しているのかを見直すための鏡でもあります。どれほど優れた戦略やビジョンを掲げたとしても、それを支える思考の構造が十分でなければ、その実現は困難になります。

 次節では、この思考の構造とは具体的にどのようなものなのか、レクティカ理論の中核となる概念を整理していきます。

レクティカ理論の核心:
思考の複雑性はどのように定義されるか

 レクティカの段階モデルを理解するうえでカギとなるのは、「思考の複雑性」という概念です。ここでいう複雑性とは、単に難しいことを考える力や、多くの知識を持っていることではありません。「どれだけ多くの要素を同時に扱い、それらの関係性をどのような構造で統合できるか」という、思考の構造そのものを指しています。

 レクティカの創始者であるセオ・ドーソンは、人の能力を潜在的な資質としてではなく、カート・フィッシャーの理論を参考にしながら、「実際の状況の中で発揮されているスキル」として捉えます。ここでいうスキルとは、単なる知識や技術ではなく、特定の文脈において実際に用いられている思考のまとまりです。したがって、同じ人であっても、扱うテーマや状況によって発揮される思考の複雑性は異なります。ある領域では高度に統合的に考えられていても、別の領域では比較的単純な構造でしか捉えられていないということも十分に起こりえます。

 レクティカでは、この思考の複雑性を、連続的な数値スケールとともに、「思考の帯」(thinking zones)として捉えます。その代表的な区分が、「高度線形思考」(advanced linear thinking)、「初期システム思考」(early systems thinking)、「高度システム思考」(advanced systems thinking)、「初期原理思考」(early principles thinking)です。

「高度線形思考」の段階では、複数の要素を扱うことはできますが、それらは主に直線的な因果関係として整理されます。たとえば、「Aが原因でBが起きる」といった一方向の説明は可能ですが、複数の要因が相互に影響し合う構造を同時に扱うことは難しい状態です。この段階では、現実は比較的単純なものとして捉えられやすく、複雑な問題も分解された要素の集合として理解される傾向があります。