恵まれた環境にいる人ほどリスクを取るべき
岩瀬 ハーバードビジネススクール(HBS)を出て生保ベンチャーをやっていると「よくそんなベンチャーをやりましたね、リスクは考えなかったんですか?」と言われます。それを聞いて、リスクって何だろうと考えました。会社の債務に個人で連帯保証をしていれば話は別ですが、エクイティファイナンスでやっている限りは、自分に大したリスクがないことに気づいたんです。唯一あるとすれば「失敗したら格好悪い」ということだけでしょう。学生にリスク云々と言われると「君たちはまだ失うものなんかないだろ」と思います。
伊賀 おっしゃるとおりですよね。年齢がある程度高くなってくると、最大のリスクはやりたいことをやらないうちに人生が終わってしまうことのはずです。誰にとっても20代は1度しかありません。30代になると20代だというだけでどれだけ恵まれていたのかわかりますし、40代になれば30代ってすばらしい時代だったと気づくはずです。できれば過ぎてから「あの時やっておけば」と思うのではなくて、今、その時点で持っているものを活かしてやりたいことをやっておくのが、人生のリスクを最小化する最善の方法だと思います。
岩瀬 そう思います。HBSの教室で学生に対して「いつか自分でビジネスを立ち上げたいと思いますか」と尋ねると、ほぼ全員が手を挙げるんですね。でも、東京大学で同じ質問をしても、手を挙げる学生は極めて少ない。たまに東大で講演する機会があるのですが、そのときにはこう問いかけています。
「社会的に恵まれている皆さんがリスクを取らないで、いまの日本でいったい誰がリスクを取るというんですか。社会を変革するために挑戦するのが皆さんの使命ではないですか」
もしかしたら、昔の東大生はそういう使命感を感じていたのかもしれませんが、今はそういう教育がないわけですね。大学で「社会に変革を起こすために挑戦することが素晴らしい生き方だ」という教育をすれば、日本は変わると思っています。
伊賀 その通りですね。今の日本でホントにおかしなことになっていると感じるのは、環境や条件、能力など、いろいろな意味で最も恵まれている人達が、最も安全で安心と思われる場所に逃げ込もうとしていることです。
高い給料をもらえて、65歳まで解雇の可能性も一切なく、高い年金ももらえて・・みたいな道に、1番恵まれている人達が我先にと殺到している。それがこの国の最大の問題だと私は思っています。
そこに入れない多くの人は非正規雇用に押しやられ、過酷な条件で働かされと、たいへんな目にあっています。本来、恵まれた環境にある人達は、自分達だけが安全圏に逃げ込むために、高い教育をうけているわけではないはずです。
ハーバードやスタンフォード大学では、恵まれている君達には、次世代の人達に機会を提供できる新しい産業や市場を創造する義務がある、君達はそれに挑戦するためにここで教育を受けているんだよ、という育てられ方をしていますよね。
岩瀬 必ずしも公教育だけではなく、いろいろな形での教育が必要です。