日本企業は欧米市場で勝っても負けてもいない

 実際、サムスン電子やLG電子が欧米市場に参入するまでは、欧米市場では、AV機器ブランドと白物ブランドは全く異なっていて、消費者も別々の製品カテゴリーと認識していた。日本では家電といえば、黒物家電(AV機器)も白物家電も含めた全ての製品カテゴリーをイメージすることが一般的であり、家電量販店やディスカウントストアの家電製品売り場も、黒物家電と白物家電は隣接した場所に置かれることが多い。家電売り場とは、パナソニックや東芝、日立といったブランドが置かれる売り場のことを指している。一方、アメリカでは、黒物家電はホーム・エレクトロニクス、白物家電はホーム・アプライアンスとして別カテゴリーと認識され、スーパーやディスカウントストアでは、両社は離れた場所に位置していることが多い。総合家電というイメージは元来存在しておらず、ホーム・エレクトロニクスの強者はソニーや東芝といった日本ブランドであり、ホーム・アプライアンスといえば、GEやワールプールといった欧米ブランドといった棲み分けになっていた。しかし、今日の欧米市場は状況が変わってきている。ホーム・エレクトロニクスにしてもホーム・アプライアンスにしてもサムスン電子、LG電子のブランドがトップブランドとして並んでいる。

 よく、「日本の家電メーカーは韓国メーカーの価格攻勢によって欧米市場から撤退に追い込まれた」といわれる。テレビやDVDといった黒物家電については、そうした側面もある。しかし、白物家電についていえば、そもそも日本の総合家電メーカーは欧米市場にほとんどといって良いほど進出していない。パナソニックがアメリカで販売している白物家電といえば、電子レンジ、ホームベーカリー、アイロン、掃除機ぐらいで、製品ラインも少なく、日本における総合家電メーカーとしてのパナソニックの信頼感や安心感は存在していない。おそらく、個別の事業毎に採算が取れると見込まれる製品だけを個別に展開しているのだろう。一方、サムスン電子やLG電子は1990年代から、欧米市場に総合家電メーカーとしての製品ラインを本格的に投入してきた。両社の白物家電事業は長年赤字であったが、赤字の事業も含めて総合家電メーカーとしてのサムスン電子という信頼感、安心感を欧米の消費者から得られたことが、ひいてはスマートフォンや液晶テレビでの圧倒的な強さにもつながっているのかもしれない。日本メーカーは、白物家電に関していえば、そもそも参入しておらず、韓国メーカーに負けたのではなく、不戦敗であった。

 3年ほど前に、パナソニックはスマート家電という新しいコンセプトを打ち出した。スマート家電は、黒物、白物問わず、全ての製品がホームネットワークにつながり、スマートフォンで操作ができる。消費者にも分かりやすくインパクトもあり、一時話題になった。パナソニックは、当時、黒物、白物、スマートフォンのスマート家電に必要な全ての製品を手がけていただけでなく、今日でも注力している旧パナソニック電工の住宅設備をもっており、家の中の全ての設備を手がけられるトップメーカーである。スマート家電は、ネットワーク技術をコア技術として、パナソニックの製品ラインをつなぎ合わせる戦略的合理性の高いプランであった。

 しかし、欧米市場では、スマート家電を始めたのはサムスン電子と思われている。サムスン電子はパナソニックの翌年に同社のスマート家電コンセプトを発表したが、欧米のメディアや消費者が初めて目にしたスマート家電はサムスンであってパナソニックではなかった。総合家電メーカーとしてのパナソニックは日本国内にビジネスが限られているためだ。欧米の消費者はそもそもパナソニックがホーム・アプライアンス・ブランドであるということを知らない。