次の実験では、被験者に画像識別ツールで赤血球の異常を識別する作業をさせた。たとえ作業が失敗していなくても、被験者には「失敗した」と伝え、その理由を2通りに提示した。つまり半数の被験者には「作業に十分集中していなかったこと」を、残り半分の被験者には「機器のブラウザに問題があった可能性」を、それぞれ失敗の理由として伝えたのである。すると後者のグループは、失敗の原因をブラウザの不具合に求めることが多かった。たとえば「どうやら、ブラウザが少しおかしいために画像を正しく表示・識別できなかったようです。そのせいで私の作業全体の精度が損なわれたかもしれません」という主張だ。

 次に、全員に同じ作業を再びやらせたところ、「十分集中していなかった」と指摘された被験者のほうが、より長い時間をかけて作業した(つまり前回よりも努力した)。しかも「ブラウザの不具合」を伝えられたグループよりも、高い成績を上げたのだ。

 現実問題として、こと失敗に関しては曖昧さを減らすことが非常に困難である。私たちの仕事には、複数の同僚・チーム、多くのステークホルダー、不具合のあるテクノロジー等々の不確実な要因が絡んでいるからだ。では、責任の所在を特定するのが難しい状況で、マネジャーはどうやって失敗からの学習を部下に促せばよいのだろうか?

 マイヤーズはいくつかの助言をくれた。まず、責任の曖昧さをもたらしうる障害(不具合のおそれがあるブラウザや、複雑な業務プロセスなど)を最初に取り除くべきだと言う。また、「マネジャーは、責任の曖昧さをもたらす要素を極力取り除く仕組み、たとえば責任の範囲や報告体制などについて、慎重に考えるべき」とも述べる。

 同時に、組織の中で安心して失敗できる環境をつくることも大切だ。「1人ひとりが失敗を認め、失敗から学ぼうと安心して思えるような文化をつくることです。そうすれば、責任回避につながる心理的圧力は少なくなります」とマイヤーズは述べる。

 さらに彼は、チームが失敗した時には処罰を伴わない原因調査をするよう勧めている。そうすれば、失敗に責任のある人はもちろん、他のチームメンバーも当事者の立場に立って学習できる。

 ただしマイヤーズは、「こうした文化を築くのは非常に困難」だとして、マネジャーの取り組みを助ける施策を示したジョン・C・マクスウェルの著書、Failing Forward (邦訳『「一勝九敗」の成功法則 』)を勧めてくれた。

 また、HBR2011年4月号も参考になるだろう(邦訳は本誌2011年7月号特集「失敗に学ぶ人 失敗で挫折する人」。9本の関連論文を収録)。ハーバード・ビジネススクール教授のエイミー・C・エドモンドソンによる重要論文「失敗に学ぶ経営」は、リーダーがどうすれば失敗の本質をよく理解し、失敗を戦略の中心に据えることができるかを述べている。エドモンドソンは、失敗が貴重な学習につながると認識することと、それを実際に組織文化の中核に据えることは別の話であるとして、「安心して失敗できる環境」をつくる5つの方法をリーダーに提案している。たとえば「業務上起こりうる失敗について、共通の認識と枠組みを設定する」「悪い知らせをもたらした部下に報いる」などである。

 P&GのA・G・ラフリーはインタビュー記事「失敗からしか学べない」の中で述べている。「私の経験では、人は成功より失敗から学ぶことのほうがずっと有意義だと思います」。彼の見解は正しい。しかし今回の新たな研究結果は、失敗についてすでに私たちが知っている以上のことを示している。失敗から学べるか否かは、過失を認める個人的能力を超えた要因――責任の曖昧さ――に左右されるのだ。


HBR.ORG原文:When We Learn From Failure (and When We Don’t) May 28, 2014

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グレッチェン・ガベット(Gretchen Gavett)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のアソシエート・エディター。