私はそのような思いを、口に出さず胸にしまっておいた。その代わりにまず、優れた指示とは何かを定義したプロイセン陸軍元帥ヘルムート・フォン・モルトケの言葉を全員に思い出してもらった――「優れた指示とは、意図を成し遂げるために知る必要のあることだけを命じることだ」。それからこう続けた。「皆さんがプロジェクト・マネジャーであると仮定しましょう。この要綱の記載事項のうち、皆さんがいい仕事をするために最も役立つものはどれでしょうか。また、最も必要がない事項はどれでしょう?」
間もなく、多くの詳細はあまり役に立たないということで意見が一致した。詳細が多いせいで本当に重要なことがはっきりしていないうえに、創造の余地が制限されていたのだ。解決されるべき技術的問題があったが、要綱には一連の解決策が明記されていた。プロジェクトチームが他の案を考え出したらどうなるのか。それらは却下されるのか。
さらに私は、プロジェクト・マネジャーの視点に立ってもう1つ質問を投げかけた。「プロジェクトの最中に、どんな選択肢が生じると思いますか」。例として、「この要綱によれば、新製品は卓越したユーザー価値を創出しなければならず、また18カ月後には準備を整えている必要がありますね。プロジェクトチームが15カ月後に皆さんのところに来て、『ユーザー価値をさらに20%高められるのですが、それにはさらに6カ月かかります』と報告したとしましょう。皆さんが求めるのはどちらでしょうか。よりよい製品をつくることですか、あるいは期限を守ることですか」
最初のうち、幹部たちの意見は真二つに割れていた。15分間の議論の後、期限を守るということで決着した。ある幹部によれば、この案件ではタイミングが決定的に重要となるが、討論する前はそのことについて当の経営陣もはっきりと自覚していなかったという。
夕食前の休憩時間になった。私はこのセッションを翌朝も続けることを約束した。1時間後にバーで顔を合わせた時、経営陣のうち3人の姿がなかった。彼らはすでに、新たなバージョンの作成に取り組んでいたのだ。3人はデザートの時間に嬉々とした様子で現れた。
翌朝、我々は3人の努力の賜物をオリジナルと比較した。新バージョンの長さは何分の1かになっていた。だれもがこちらを好んだが、内容について質問がいくつか出され、我々は解決に取り掛かった。1時間ほど経って、新バージョンに再度変更が加えられ、だれもが満足するものが出来上がった。これまでの要綱の中で最良のものだと評価する声も上がった。
改訂された要綱は、2つの理由で優れていた。第一に、プロジェクトチームが任務遂行中に自分たちで決定できる細部については、記載をやめた。第二に、経営陣による決議を要するにもかかわらず伝達されていなかった事項について、追加情報を加えた。70年前のブライアン・ホロックスのように、幹部たちは部下がやるべき仕事に精を出すあまり、自身の職務を適切に遂行していなかったのだ。
これはよくありがちな過ちである。一部の企業では、幹部たちが1ランク下の仕事をしているため、実際にトップがやるべき仕事をしていない。いったんその問題を認識すれば、是正することは難しくない。それには何らかの努力が必要となるが、見返りは得られるはずだ。
HBR.ORG原文:Memo to the Boss: Don’t Do My Job For Me February 18, 2013
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ロンドンにあるアシュリッジ・ストラテジック・マネジメント・センターのディレクター。著書にThe Art of Action: How Leaders Close the Gaps Between Plans, Actions and Resultsがある。