“ポスト”PMIでグローバルを取り入れる

入山 実はM&Aが難しいのは日本だけではありません。経営学者のこれまでの研究によれば、M&Aの7割~8割は、国内でもクロスボーダーでも欧米でも失敗するそうです。例えば米インディアナ大学のジェフリー・コーヴィン教授らが2004年に『ストラテジック・マネジメント・ジャーナル』(SMJ)に発表した研究では、M&A93本に関する統計分析の研究をメタ・アナリシスという手法で総合評価した結果、やはり買収した側は企業価値を毀損し、買収される側の企業だけが企業価値を上げるという結論を得ています。

日置 M&Aがうまくいかないのは、世界的な課題ということですね。その中でも、日本企業が海外M&Aの効果を最大化するためには、買った側の本社が買われた側から学んで、自らの経営システムを一度アップデートしたうえで、それを全社に展開することが必要なのではないでしょうか。グローバルマネジメントという視点から見ると、残念ながら、買った側の日本企業のほうが仕組み面で劣っています。したがって、一般に言われるPMIの後の段階、私が“ポスト” PMIと呼んでいるダブルループ的なプロセスが大事だと考えています。少し変な言葉なんですが。

入山 PMIで大切なポイントは、日置さんのおっしゃる通り、「俺たちが買って教えてやる」ではなく、買収された側の企業から学ぶことだと思います。M&A研究を専門とするローレンス・カプロンというINSEADの経営戦略論の教授は、SMJに発表した論文でまさにその点を指摘しています。米国のデータですが、買収者と被買収者のどちらがより相手に学んだかを見ていくと、買った側が買われた側に教えるよりも、買った側が買われた側から学んでいるほうが、企業価値は高くなるという結果が出ています。

日置 繰り返しになりますが、日本企業がグローバル化を狙って買収する場合、買収先からグローバルが何たるかを学び、それにフィットするマネジメントのあり方や仕組みを従来的な経営体制にフィードバックしていくことが、本当の意味で目的を果たすことにつながると思います。現実は、日本と「それ以外のグローバル」で分けてしまいがちであり、学ぶべき人たちが距離を置いていることが非常に気がかりです。