関西大学におけるAJICONの事例

 筆者が今年3月まで所属していた関西大学は、文部科学省の補助事業には採択されなかったが、大学独自の事業として、過去2年間にわたり、イノベーション対話促進プログラムを推進してきた。その結果、少なくとも5つの製品が商品化されるなど、短期間に大きな成果を生んでいる。

 関西大学では、食品分野でイノベーション対話促進プログラムに取り組んできた。注目した技術シーズは、関西大学の化学生命工学部 生命・生物工学科天然素材工学研究室の河原秀久教授が発見し実用化した、不凍タンパク質や接着タンパク質である。いずれも天然の食物由来で、不凍タンパク質はカイワレ大根、接着タンパク質はエノキタケから抽出できる。河原教授の不凍タンパク質は、2015年3月に、平成27年度文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門)を受賞した(注6)。

 今回は、接着タンパク質をシーズとして行った商品化の事例を取り上げる。接着タンパク質は、タンパク質のエキスを食品にごく少量添加するだけで、化学合成添加物を用いず、粘着性や硬さの調節が可能になる画期的なものだ。たとえば、カレーやシチューのとろみ付けに使用すれば、小麦粉アレルギーの人でも食べられるようになる。あるいは、嚥下(えんげ)障害のある人向けに、食感を自由にコントロールすることもできる。

 ただし、「食品の物性を変化させられる」「硬さや食感を変えられる」というだけでは、まだシーズ側の発想である。顧客のベネフィットが感じ取れる表現にはなっていないからだ。誰がいつ、どのような場面で、いくらで買う製品を、どのような手段で届けるのかまで一貫してデザインされなければ、市場で広く普及するイノベーションにはなり得ない。

 そこで、荒木孝治教授、西岡健一准教授と筆者という、商学部所属ながら少し理工系寄りのキャリアを持つ3教員のゼミに所属する2年次の学生が、チーム・プロジェクトとして事業企画を行った。顧客視点で未来志向の柔軟な発想ができる消費者の代表として、参加した学生は2年間でのべ約100名にのぼった。以下、そのイノベーション対話促進プログラムの一つである、AJICON(アジコン)の具体的な内容を見てみよう。