2014年度に行われた接着タンパク質をシーズとするAJICONは、2014年9月にスタートし、10月と12月に2回のワークショップが開催された。ワークショップでは、パン、そば、アイスクリーム、チョコレート、カレー、リゾットなど、学生が企画した商品の試作品が提供され、企業、消費者、介護施設・病院関係者、栄養士など、さまざまなバックグラウンドの参加者が各ブースで試食し、意見交換を行った。それらのフィードバックを踏まえ、応用開発・量産試作・量産を担当する大学や企業がさらに開発を進め、複数の企画案が実際に商品化されることになった。

大手前大学と関西大学のコラボレーションで誕生した「ベジチョコ」
その1つが、グランフロント大阪に店舗を構える大手前大学のスイーツラボで2015年2月に発売された「ベジチョコ」である(写真1)。接着タンパク質を野菜クリームに添加した、今までにないフレッシュな食感のボンボンチョコレートだ。大手前大学の総合文化学部のスイーツ学専攻の松井博司教授が、学生のアイデアを基に試作を重ね、商品として実現した。
松井教授によれば、スイーツ業界でも栄養分を補う機能性を重視した商品が増えつつあるという。河原教授の画期的なシーズと、パティシエでもある松井教授の技、そして、チョコレートと野菜を結び付けた学生の柔軟な発想という新しい結びつきが、野菜クリーム入りのフレッシュ・ボンボンという、全く新しい商品を生み出した。シュムペーター流にいえば、新結合(new combination) が生じたのである。

白ハト食品工業と関西大学が共同開発した「おいも ぬくもりパン」
このベジチョコに加え、サツマイモの大学イモやパイの店舗を展開する白ハト食品工業株式会社と共同開発した「おいも ぬくもりパン」(写真2)や、信州の製麺メーカーである株式会社おびなたと共同開発した「KUUDLE関麺」という蕎麦も近日中に発売される予定である。いずれも、今までにない食感を実現したパンや蕎麦だ。さらに、介護食やカレーなどの製品も、量産可能なメーカーを探しながら、発売に向けて動いている(注7 ) 。
このAJICONの事例が前回までに紹介した他の事例と大きく異なる点は、主に次の3点である。