その後HBRでは、問題のある上司はまったくの無能ではなく、特定の部分で非常に有能であるために欠点が見過ごされている、という議論が始まった。その代表が、マイケル・マコビーによる"Narcissistic Leaders: The Incredible Pros, the Inevitable Cons"(邦訳「ナルシスティック・リーダー」)である(個性と自己愛の強いリーダーは、情熱と大胆さを必要としている企業にとっては望ましくもあるが、時に危険にもなる)。また、この現象のプラス面を詳しく掘り下げた"Making Yourself Indispensable"(邦訳「リーダーシップ・コンピテンシー強化法」)は、強みを最大限に伸ばすことで欠点は問題ではなくなるとして、その方法を順を追って説明している。

 これらの分析は、ダメ上司がはびこる理由を説明するうえで役に立つ。そして、その埋め合わせをすべきなのは部下であることを示している。というのも、組織は無能な上司を排除することに、必ずしも大きな関心を持たないからだ。ナルシスティックなリーダーに対処するために欠かせない存在について論じたのが、"Toxic Handler: Organizational Hero and Casualty"(邦訳「ヒーリング・リーダー」)である。この論文が焦点を当てるのは、多くの組織に存在する、「会社人生につきものである悲しみや不満、恨み、怒りの受け皿となることをみずから買って出ることで、有害な上司がもたらす被害を修復する人々」だ。

 こうした最近の議論の根底には、次の前提がある。「ほとんどの上司は部下でもあり、部下は上司でもあるのだから、みずからの力で上司に影響を及ぼすことができる」ということだ。この点についてはすでに1988年、ロバート・ケリーが"In Praise of Followers"(邦訳「独立型・自立型『フォロアー』の育成」)の中で触れている。ここでは優秀な部下の特性は、優秀な上司の特性とほぼ一致することが示されている。両者とも「自己管理に長けている。組織、目的、原則、周囲の人々に対して強くコミットする。能力を磨き、最大のインパクトを上げることに努力を集中させる。勇気があり、正直で、信頼できる」という。とはいえ、誰もがそうだったら『ピーターの法則』は執筆されなかっただろう。

HBR.ORG原文:Overcoming the Peter Principle December 22, 2014


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アンドレア・オバンズ(Andrea Ovans)
ハーバード・ビジネス・レビューのシニア・エディター