出会い系サイトのOKキューピッド(OKCupid)は、ファイアフォックスを使っているユーザーにブラウザの変更を求める形で、自社の倫理観を表明した。モジラ社のCEO(当時)が、その数年前にカリフォルニアでの同性結婚に反対を示したからだ。出会い系サイト市場において、OKキューピッドは「誰もがパートナーを見つけられる場」としての地位を築こうとしている。そのためこのような倫理的立場を示して顧客に介入することは、同性愛の支持者が急速に増えつつあるなかで、自社のブランド価値を高めるのに一役買うことにもなった。
テクノロジー企業がウェブサイトの訪問者とアプリユーザーに対して、具体的な政治行動を求めるようになった契機とは何か。それは2つのインターネット規制法案に関するオンライン上の闘争であった。オンライン海賊行為防止法案(SOPA)と知的財産保護法案(PIPA)である。主要なウェブサイトの多くが、その闘争にさまざまなレベルで参加した。SNSのタンブラー、ウィキペディア、グーグルは、サイトの停止や支援リンク、メールによってその大義を推し進めた。
行動の呼びかけにはさまざまな手法が取られた。グーグルは他のネット中立化運動に参加したことがあるユーザーにメールを送信。タンブラーはサイトの訪問者を即座に国会議員へと電話でつなぐよう誘導した(支援者に電話をさせるのはハードルの高い行為である、と連邦議会の職員からは見なされている)。何百万というユーザーに対して政治行動を求める決定を下したのは、それができる少数の人々だったのである。
顧客を政治行動に動員するのは、ビジネス上の理由もある。ユーザーが擁護者である限り、政治行動は顧客と企業の双方に恩恵をもたらすはずだ(おそらく完全に同等の恩恵ではないにせよ)。月額課金でテレビ番組をネット端末向けに配信していたエアリオ(Aereo)は、テレビ局との法廷闘争に直面した。同社のサービスを好んでいた顧客であれば、意見を表明したいと考えるのは当然だ。闘争は最高裁にまで持ち込まれ、結局、エアリオは事業停止に追い込まれた。
自社を守るために顧客を動員する姿勢が最も顕著なのは、いわゆる「シェアリングエコノミー」の企業である。事業存続のためにそうせざるを得ないという事情が大きい。ウーバー、空き部屋仲介のエアビーアンドビー(Airbnb)、配車サービスのリフト(Lyft)、遺伝子解析サービスの23andMeなどは、既存の規制への対処を迫られており、場合によっては完全に無視することもある。これらの企業は、立法者や規制当局との対話において顧客のロイヤルティが有益となることに気づいた。
ユニオン・スクエア・ベンチャーズ(ベンチャーキャピタル)のニック・グロスマンは、ブログで次のように述べている。
「新興のスタートアップ企業は、古いルールに囚われないクリエイティブで魅力的な新サービスを提供する。ルールは無視され続け、やがて新サービスに満足する顧客が一定数に達する。すると、規制当局と既存企業はそのイノベーションを潰そうとして、スタートアップ企業とそれを歓迎するユーザーは規制当局に非難を浴びせる。そして、イノベーションの実際の効果が疑問視されてしまう。論争を収めるために、ごくわずかなデータのみが取り上げられる。これが延々と繰り返されるのだ」
グロスマンは、破壊的なビジネスモデルに対する政府の規制はもっと緩いほうがよいと論じる。そして、企業側はより積極的にデータを提供し、実際の成果に基づく規制が形成されるよう後押しすべきだとしている。シェアリングエコノミーの企業は、自社のビジネスモデルそのものを脅かす規制との闘いに全資産を総動員しており、そのなかには私たちユーザーも含まれている。