テクノロジー企業は、ユーザーに直接働きかける際に、顧客直通のチャネルをみずからつくり利用している。オバマ政権は内部に独自のメディア・スタジオを設けて、既存の専門メディアを介さずに直接話しかけるようになっている。政府にこれができるなら、世界で最も人気の高いウェブサイトやSNSを運営する企業で同じことができないわけはない。

 最終目標が立法者に訴えかけることであるなら、大勢の人々を動員して当局に接触させるのは効果的な手法だ。テクノロジー企業はそうしたコミュニケーション・チャネルへのアクセスを所有している。それ以外の他者が外部からアクセスするには、対価を支払わなければならない。多くの場合それは非常に高くつき、そもそも金銭では権利を得られないこともある。

 もう1つの問題として、ユーザーに行動を呼びかける際のメッセージは簡略化されているため、対立する見解が示されないことがある。企業は、社会が破壊的テクノロジーにどう適応すべきなのかという、デリケートかつ火急の問題について話し合う場を設けようなどとは考えない。自社のデザインとコンバージョンテストのツールを駆使して、政治行動を効率的に促そうとしているだけである。

 このようにこぼしたのは、トロントでアドボカシー活動の標的となった当局関係者である。カナダのポーター航空は、2014年にフェイスブックで、一般の人々に渡航したい都市を尋ねるオンライン投票を実施した。ユーザーが投票すると、市議会議員に電話かメールをするメニューが即座に表示され、トロント・シティー空港の滑走路の増設を求めるよう促される仕組みになっていた。増設に反対していたある市議は、新滑走路の建設で生じるマイナス面、たとえば公的資金が使われることや水域環境が破壊されることなどについて、回答者は何も知らされないという事実を懸念している。ポーター航空のキャンペーン・サイトによれば、すでに5万人超が賛成に署名している。

 反対の見解が特に重要となるのは、それが同じ企業の別の顧客から発せられている場合だ。企業は、ある行動を呼びかけることで主要顧客との関係が損なわれかねない場合、声を上げたくても沈黙を選ぶかもしれない。B2B企業の場合は、取引先との利害の衝突の影響をより被りやすい。

 B2C企業は、世論という“判事”に留意する必要がある。コンシュマーブランドにとっては、大衆の認識が政治的発言に歯止めをかける役割を果たす。特定の候補者を推したくても、顧客の大多数が反対であればやるべきではない。企業は賛否が分かれるような問題に関して立場を示す時、消費者全体を敵に回すリスクを負う。

 利害の不一致という問題もある。企業と顧客の利害は時として一致せず、完全に相反することもある。このような場合に、企業が政治行動に顧客を巻き込むことはまずない。エアビーアンドビーはユーザーに対し、自社サービスがその地域で合法化されるよう擁護してほしいと定期的に求める。しかし、誰が税金を負担するのかなど、現地での運営に関してユーザーと深い議論をするつもりはない。

 経済学者ハーバート・サイモンによれば、物質的ニーズの多くが満たされた社会では、人々の関心(アテンション)は貴重な資源となる。この理論は、最も莫大な金額が投じられるもの、すなわち広告とPRに人々を引き寄せられる企業が圧倒的価値を有することからも裏づけられる。ウェブ上の主要なプラットフォームの多くで製品・サービスに無料でアクセスできるのは、広告を通じて「人々の関心を取引する」ことで成立しているからだ。

 私たちは「アテンションエコノミー」を生きている。いまでは各種アプリに関心を引き寄せられ、起きている間は大小さまざまな画面を見つめて過ごす時間が増えている。第一級のデジタル資産を活用してユーザーに特定の政治行動を促せるテクノロジー企業は、現代的かつ極めて現実的な権力を手にしている。特にフェイスブックのように、人々の関心の中心にある企業によってその力が行使される場合、その威力は計り知れない。

 2016年の大統領選挙に向けてキャンペーンが白熱しつつあり、シェアリングエコノミーに関する論争も盛んになるなか、さらに多くの企業が顧客を政治行動に動員するようになると思われる。そのいくつかの例を、私はここ(英語サイト)に記録していくつもりだ。

 テクノロジーは私たちに、自分の意思を表明する新たな手段を与え続ける。民主主義はそうした自己表明によって成り立っている。そして企業はますます、それらの意思表示を自社が呼びかけて動かすことに、ビジネス上の価値を見出しているのである。


HBR.ORG原文:Are Uber and Facebook Turning Users into Lobbyists? August 11, 2015

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マット・ステンペック(Matt Stempeck)
マイクロソフトのシビック・テクノロジー部門ディレクター。社会的利益のためのテクノロジー活用に取り組む。