思考モデルとは、周囲の世界を(多くは無意識的に)理解する方法である。それは私たちが何を見るか、または見ないかを決定し、原因と結果とを結びつけるものだ。たとえば、問題解決における典型的な思考モデルは、「何をすべきか」を探すように働く――「どう考えるべきか」ではなく。

 思考モデルは、目的地への行き方を教えてくれるGPSの地図のようなものだ。周囲の状況に変化がない時には、新たな目的地を入力すれば進むべき道が示される。だが地形が変わってしまうと、思考の地図は古くなる。そうして誤った道を曲がり、迷ったり途方にくれたりする。

 あいにく、頭の中にある地図は、スマートフォンの地図ほど容易に更新可能ではない。思考モデルとは思考の癖や習慣であり、一晩寝れば変えられるようなものではない。これを変えるには、学習をしながら、同時に既存の知識を捨てる(アンラーニングする)必要がある。そのプロセスは、10代の若者が車の運転方法を学ぶのとは様相が異なる。右側通行の国の人が旅行でロンドンを訪れ、左側通行に従って運転を試みるようなものに近い。

 習慣化に関する研究によれば、新たな行動様式を身に付けるうえでカギとなるのは、適切な誘因をつくり、小さなステップを踏むことだという。同じことは思考の習慣にも当てはまる。手始めに、以下を実践してみるとよい。

1.誰かが問題を提起した時、すぐに「どうしよう?」(自分たちはどうすべきだろう)と応じがちであることに注意したい。そうではなく、「どう考えるべきだろう?」と問いかけてみよう。問題を発生させたのと同じ思考法で、問題を解決しようとしていないだろうか。相手が自動車について説明しているのに、「ああ、馬のいない馬車のようなものだね」などと考えていないだろうか。

2.何かの活動を率いて運営する際には、全員の足並みが行動面でそろっているか以前に、思考面でそろっているかを確認しよう。全員が同じ言葉を用いているからといって、同じ思考モデルを共有していることにはならない。たとえば、誰かが「ブランド」と言った時、それはロゴを指しているのか、それとも評判あるいは体験を意味しているのだろうか。

3.他社の成功体験について知った時、その「やっていること」を単に真似するのではなく、その根底にある「考え方」をつぶさに検討しよう。「○○界のウーバー」として成功するうえでカギとなるのは、アプリで操作可能な何かの配達サービスをつくることではなく、プラットフォームという考え方を採り入れることである。

4.意思決定の際には、「ベストプラクティス」に頼りすぎないよう注意してほしい。ベストプラクティスとはそもそもが、過去の思考モデルから生まれたツールやアプローチである。その代わりに、「ネクストプラクティス」に目を向けよう。成功事例の背後にある思考を分解し、その原理を自らの状況に適用するのだ。

 時代遅れになる恐怖は、現実的かつ当然の心理である。しかし幸いなことに、私たちはデジタル時代のドードー(17世紀に絶滅した鳥)となる宿命にあるわけではない。時代遅れになるのは人間そのものではなく、人間の思考モデルだ。ドードーは飛ぶことを学習できなかったが、私たちは学習によって考え方を変えること、新たな思考習慣を身につけることができる。思考モデルを更新することで、再起力と心の余裕が生まれ、時流に対する自身の妥当性(レレバンス)を高めやすくなるのだ。

 そうなればソーシャルメディアをチェックする時間も増え、大事な何かを取り逃すことはなくなるだろう。


HBR.ORG原文:How to Stop Worrying About Becoming Obsolete at Work January 11, 2016

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マーク・ボンチェク(Mark Bonchek)
シフト・シンキングの創設者兼最高洞察責任者(Chief Epiphany Officer)。デジタル時代を生き抜くための思考変革を支援する。