「人を大事にする経営」を
アップデートする
日置 シュンペーター型のRBVでは、重視するリソースもチェンバレン型のRBVとは異なってくるのではないでしょうか。

入山 リソースの中でも人材の重要性が格段に高まると考えています。チェンバレン型の競争では、組織にノウハウを蓄積していくので人と人の関係性は固定的でよかったのですが、イノベーションは知と知の組み合わせであり、それはすなわち人と人のつながりですから。
日置 イノベーションが競争優位になると言っても、デジタルはつなぐ手段であって、むしろ、人と人のつながりというアナログな部分が大事になるということですね。
入山 前回もトランザクティブメモリーのハブになる人がいると知がつながると話したように、いかに知をつなげるか、つながる可能性を高めるオープンな組織でいられるかが、この新しいRBVのポイントとなるでしょう。
日置 日本企業は「人を大事にする経営」を掲げてきて、それは終身雇用を意味してきました。しかし、シュンペーター型の競争にシフトしていくと、個々人の多様性、キャリアの柔軟性、雇用の流動性を認め、人材の可能性を活かしきることになってくる。人材というテーマは、雇用や民族性まで含む社会的背景を背負うものですが、そのアップデートこそが、これからの「日本らしさ」を創り、勝っていく糸口になると思います。
対談連載の終わりに
――経営学者と経営コンサルタントの交わりから生まれたもの
日置 さて、今回でこの連載は最終回になります。経営学者と経営コンサルタントの対話によって、グローバルで戦う日本企業の経営の深層課題に光明を見出したいと始めたこの連載、僕は入山さんから教えていただいた経営理論がたいへん勉強になりました。正直に言うと知らないこともあって、経営コンサルタントを名乗る者として少々恥ずかしい思いもありましたが、経営学が現実の経営に”使える”ものだと、あらためて認識しました。逆に、僕から何かご提供できているとよいのですが。
入山 日置さんの生み出す独特のキーワードがすごくいいですよね。振り返ると、「後ろ盾モデル」「1.5列目」「”ポスト”PMI」「ガラパゴス組織論」「ハッピーセパレーション」など、一見わからないけれど、一度わかると実に納得できるものばかりです。
日置 僕がコンサルタントとして日本企業とグローバル企業の企業行動を観察する中から発想したそれらと、世界最先端の経営学や入山さんの知見を掛け合せることで、裏付けたり新しい視点を加えたりすることができ本当に楽しかったです。グローバル、グローバルと言いながら、「日本」企業にフォーカスを当てるのもなんですが、やはり日本人としては、日本企業には強くあって欲しいので、これからも色んな場で、引き続き日本企業に役立つ「経営現論」をやっていきましょう。