シュンペーター型時代の
新しいリソース・ベースド・ビュー(RBV)

日置 ものづくりの強みにも期待したい一方で、以前に「競争の型」で紹介していただいたように、ものづくりの世界も、かつて日本が得意だった領域から、不確実性の高い環境下でイノベーションを起こし続ける領域にシフトしていますね。

入山 チェンバレン型の競争から、シュンペーター型の競争へのシフトですね。家電や自動車など日本が得意としてきた事業は、各社が独自の強みを磨いて差別化するチェンバレン型の競争でしたが、それらの事業もイノベーションが重要なシュンペーター型へと移行し、企業はそれに応じて戦い方も変えなければなりません。

日置 GEデジタルはまさにチェンバレン型で勝ってきた企業がシュンペーター型にシフトする、シュンペーター型での戦い方を取り込む好例だと見ています。GEデジタルの前身であったGEソフトウェアを立ち上げ、強化した際には、シュンペーター型で競争優位を築いてきたシスコ出身者をリーダーに据え、そこである程度GEらしいシュンペーター型での戦い方を創り、GEデジタルに発展させて全社展開し、GE全体をシフトしようとしています。

入山 競争環境の定義にも新しい見方が出てきています。経営学では、マーケット(市場)が重なる企業同士を競合として分析するのが一般的ですが、マーガレット・ペテラフとマーク・バーゲンという2人の研究者が提示したフレームワークは、リソース(経営資源)で競合を捉えています(*1)。異なるマーケットにいても、リソースが重なる企業は「潜在的な競合」だというのです。

日置 なるほど。時間軸に置き直せば、今はマーケットが異なるけれど、将来そのマーケットに入ろうと思えば入れる、潜在的な競合と言えますね。

入山 競争戦略分析では、結果はあくまでマーケット側に表出するもので、その条件としてのリソースやケイパビリティという見方になってしまうのですが、リソースにも競争環境があるということです。同様の視点として「プロダクトマーケット(製品市場)の競争」に対して「ファクターマーケット(人材・技術など、生産要素側の市場)の競争」という考え方も出されています(*2)。競争環境とそれに応じた戦略を見極めるためには、プロダクトとファクターの両視点から競合を捉えなければならないという主張です。

日置 3Mの知人から「製品は捨てても技術を殺してはいけない」ということを聞いたことがあります。あるプロダクトマーケットが有望でなかったり自社が有利にならなかったりしても、技術はその判断に引きずられてはいけなくて、ファクターマーケットの観点では別の判断がありうるということですね。次のプロダクトマーケットにアプローチする手立てとなる技術かもしれないのですから。

入山 これからインダストリーコンバージェンス(産業の壁の崩壊)がさらに進行すると、プロダクト側の境目はどんどん変わっていくので、リソース側の強みを自分たちで把握して、それを維持し、育て、活かせるところはどこかという発想で考えることが大事になってきます。

日置 日本は産業をほぼフルセットで持っている状態にあり、国として見ればリソースのラインナップの幅が広いということができます。それを活かせる産業はどこなのか。競争環境をリソースの観点から見直すことで、日本と日本企業の持つケイパビリティを最大に活かす事業立地を新たな角度から探すヒントになりそうです。

*1 Margaret A. Peteraf and Mark E. Bergen, “Scanning dynamic competitive landscapes: A market-based and resource based framework”, Strategic Management Journal, 2003.

*2 Gideon D. Markman, Peter T. Gianiodis, Ann K. Buchholtz, “Factor-market rivalry”, Academy of Management Review, 2009.