「競争の型」のシフトで稼ぐ領域が変わる

入山 この「1.5列目」の有効性は、「競争の型」(*1)によって異なるかもしれません。というのも、米ユタ大学の著名経営学者ジェイ・バーニーが1986年に発表した論文によると、競争には「IO型」「チェンバレン型」「シュンペーター型」があるとされています。ポーターらのポジショニング派が前提とする戦略的に寡占状態に持っていくIO型、RBV(資源ベース理論)が想定する、ある程度決まったルールの下、お互いに差別化を目指し、独自の強みを出して頑張るというチェンバレン型の2つが、従来的な経営学の競争の型といえます。業界によって競争の型は異なり、私の見立てでは、自動車業界や電機業界で複数の企業が長く競ってきた日本企業はチェンバレン型に強いのではないかと。

日置 なるほど。日本企業は、技術や現場のオペレーショナルエクセレンスで勝てるチェンバレン型の戦い方に長けているのでしょうね。

入山 もう一つのシュンペーター型は、現在のIT業界がそうで、不確実性が非常に高く、いったんビジネスとして確立しても、5年後にどうなっているかわからない環境です。そのため、絶えざるイノベーションと変化が求められます。グローバル化が進むと、不確実性が高まり、業界によっては想定する環境がシュンペーター型に近づくこともあるかもしれません。
 そう考えると、従来チェンバレン型の競争にあった自動車業界なども、新しい技術の登場や異業種からの参入によって、IT業界と同じようなスピードで動くことが求められるかもしれません。一方で、コモディティ製品は規模の経済で価格がものを言う状態、すなわち独占・寡占化が進むことによって、IO型競争へのシフトが起きてくる可能性もあるでしょう。

日置 大局的に見れば、チェンバレン型にあった業界がシュンペーター型とIO型にシフトしていくのですね。技術力をウリとしている日本なのだから、願わくはシュンペーター型で稼ぐ力をつけたい、そうでなければ面白くない。しかしながら、現実の企業行動を見渡すと、不確実性が高いからと言って闇雲に色々な事業に手を出したりして、向いていないのではないかとも思ってしまいます。

入山 それは「わるいシュンペーター型」に陥っていますね。私は、「1.5列目」はまさに既存企業が「よいシュンペーター型」で勝つための動き方だと思うんですね。ベンチャーや一部のIT系企業はリーンスタートアップでとにかくやってみて、先行者利益を狙う動きになります。しかし伝統的な大企業ですべてそういう動きをするのは難しい。だから、先を見据えて、色々実験して、外の先行者やその予備軍も巻き込みながら、1.5列目の位置につけるのが賢いやり方だと。

日置 IO型においても、1.5列目の発想で捉えられる部分もあると思います。先ほど議論したチェンバレン型からの移行が起きている価格競争の消耗戦でプレイヤーが減っていくものは、「わるいIO型」のように思います。他方、自らルールを作ることによって独占的な戦い方を目指す、いわば「よいIO型」で勝っていくには、周辺のプレイヤーの動きは勿論、社会動向も見ながら、市場そのものを創る、あるいは参入に際して自社に有利なルールを形成して一気に独占的な立場へと持っていくことで、1.5列目で稼げるポジションがとれると見ています。
 ただし、IO型は、まさにゲームのルールを作れる者が勝つ世界ですから、「ルールは守るもの」という意識がまだ強い日本企業がそれをリードするのは難しいことではありますが。

入山 確かに、得手ではないかもしれませんね。シュンペーター型とIO型のどちらでも、大きな流れを捉える、さらには新しい流れを創り出すことが、日本企業が「稼ぐ力」をつけるために必要ですね。


*1 「競争の型」の詳細はDHBR誌2015年1月号「世界標準の経営学」参照。