1.次世代的な製造エコシステム
一例として、中国の珠江デルタ地帯は、電子部品の製造エコシステムとして世界一流であり、必須の物理的インフラ、物流、製造機能が整っている。これに対して米国では、ハードウェア製造機能が事実上、解体されている。
製造エコシステムを擁していることで、中国企業にはいくつかのメリットが与えられている。
まず、試作品の製作を迅速に行い、新製品発売までの時間を短縮できる。珠江デルタ地帯には、米国とは異なり、部品のサプライヤーも共存する。シリコンバレーで開発に2週間を要する試作品を、深センでは一昼夜でつくることも可能だ。
新製品の開発には往々にして、多くの試作品が必要となる。たとえば、ダイソンの掃除機は5000を超える試作品を要した。したがって、充実した製造エコシステムは、研究開発から市場投入へともっていくうえで大いに有利なのだ。
2つ目のメリットとして、部品製造におけるスケールメリットがある。それによって中国企業は、品質を保ちながらも、コストを50~60%低く抑えることができる。
2.中級・上級の技能人材のプール
中国の人件費が上昇しているのは周知の事実であり、低コストの製造は、ベトナムやバングラデシュなどの国々へと移行している。それでも中国は、主に2つの人材カテゴリーでコスト優位を享受している。それは、研究開発とマーケティング・販売だ。
技術屋が新たな機能をつくる一方で、大学で経営学を修めた人々が低コストで製品を販売し、新たなビジネスモデルや商業的イノベーションまで生み出すことができる。名目賃金で明らかにコスト優位性があるだけでなく、中国の技術者とマネジャーは、よく働く。シーメンスの報告によれば、中国最大の通信機器会社であるファーウェイの技術者の年間労働時間は2750時間であり、欧米の競合他社の約2倍にも達する。
米国の場合には、技術者とMBA取得者を量産してはいるが、彼らは人件費も高い。高等教育の学費も非常に高額だ。中国では、国が大学に投資することで、国内の技術者とMBA取得者の人材プールを拡大させている。また、海外にいる中国人に帰国を促すインセンティブも、いくつか提供している。
3.大規模な国内市場
中国は13億人を超える人口と、北京語という主要共通言語(10億人近い話者)を擁している。これに、急成長する経済と中流層の増加が相まって、巨大な国内市場が形成されている。このため中国企業は、自社の製品を試すことが容易で、一から始めて完成まで、あっという間にたどり着くことができる。そしてビジネスモデルを国内で磨き上げることができるため、自信をもって海外に進出できるのだ。ハイアールは、中国内で低価格・高品質の電化製品メーカーとなり、その優位性を利用して、いまや世界市場におけるトップ企業の1つとなっている。
これらの優位性に加えて、技術的な成功要因もある。世界では多くの分野でハードウェア技術が飛躍的イノベーションを遂げており、中国企業もその恩恵を受けている。たとえば画像処理、半導体チップ、電池などの技術進歩であり、これらはアップルのスマートフォンに牽引されたところが大きい。また、成熟度を増す人工知能やアナリティクスなどのデジタル技術も寄与している。
要約すると、中国は、製造エコシステム、低コストの技能労働者、巨大な国内市場という3つの優位性を組み合わせることで、新たなビジネスモデル・イノベーションの潮流の最先端に立っているのだ。それによって高品質で低価格なハイテク製品を生み出しており、米国ほかの先進諸国は、太刀打ちするのが困難となるだろう。
現在では米中間の貿易摩擦に多くの関心が寄せられている。だが、だからといって、米国企業が中国と手を組む長期的なメリットを見逃してはならない。
HBR.ORG原文:The Factors Behind China’s Growing Strength in Innovation, July 02, 2018.
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ジエ・ガン(Jie Gan)
中国の長江商学院(CKGSB)の金融学教授、副学院長、金融・経済発展研究センター主任。DJIをはじめとする多数のハイテク企業の取締役も務める。

ビジャイ・ゴビンダラジャン(Vijay Govindarajan)
ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのコックス記念特別教授。ハーバード・ビジネススクールのマービン・バウワー・フェローも務める。ラヴィ・ラママーティとの共著に、Reverse Innovation in Health Care(未訳)がある。