リスキル成功の要諦

 上述の事例は海外のものですが、人口減少によって人手不足が深刻な日本では、リスキルの必要性はより高いと考えられます。にもかかわらず、雇用する側・される側ともに、リスキルに向けた準備はまだまだ整っていないと言えます。図2~4の調査データからわかるように、総じて諸外国に比べた日本の特徴は、そもそもスキルアップへの意識は高くなく、スキル習得に時間を割くことができておらず、かつ、何を習得すべきかについても明確に認識できていない傾向が見て取れます。

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出所:アクセンチュア、Harnessing: Revolution: Creating the Future Workforce (2017)

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出所:アクセンチュア、Harnessing: Revolution: Creating the Future Workforce (2017)

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出所:アクセンチュア、Harnessing: Revolution: Creating the Future Workforce (2017)

 このような、リスキルの重要性認識も低く、具体的なアクションも取れていない現状を踏まえ、日本企業においてリスキルを成功させるために必要なことは、3つあります。

 一つ目は、社員の会社へのロイヤリティやエンゲージメントを高めることです。AIなどのテクノロジーを用いた学習機会を与えることはできても、最終的にスキルを習得する社員の強い意志なくしては、リスキルは実現しません。また、仮に必要なスキルが身についたとしても、社員が職場から離れてしまっては、リスキル投資の意味がありません。社員が自身のリスキルの重要性を認識し、スキルアップしてこの仕事をこの会社で続けていこうという意欲を高めてこそ、初めて意味のある投資になるということです。

 二つ目は、CEOのコミットです。前述の事例からもわかるように、リスキルには会社として思い切った投資が必要となるだけでなく、事業の再編成・組織改編や、部署横断での人材再配置といった全社横断的な取り組みが必須になります。また、スキルは一朝一夕に習得できるものではなく、かつ、そのリスキルの成果が業績に結びつくまでさらに多くの時間を要します。このような全社横断的かつ長期的な取り組みは、人事部など単独の部署の努力だけでは実現できません。

 AT&TやDBSの事例においても、CEOがリスキルへの投資の意思決定に関わったことはもちろんのこと、大学との提携プログラム設立に向けた交渉や、CEO自らハッカソンの審査員を務めるなど、リスキルプログラムの中身にまでCEOが積極的に関わっています。そして、このようなことこそが、また前述の社員のロイヤリティを高めることにもつながるのです。

 三つ目は、過去の業務経験や人間関係のなかで蓄積された本人および周囲の職務能力や適性に関する“バイアス”を取り除いて、本来個々人が持つ強みを客観的に評価することです。今後求められるスキルはこれまで求められたスキルとは異なっているため、先入観を捨て去り、本人の強みを正しく見定めて評価する必要があります。また、前述の調査データにあるような「どのようなスキルを身につけるべきかわからない」状況が起こるのは、この将来スキルという観点からの客観的な評価が欠けていることが大きな要因の一つであると言えます。