社員の意識改革からデジタル変革を始めたシンガポール開発銀行

 次はシンガポール開発銀行(DBS)の事例を見てみましょう。DBSは、GAFAのようなテクノロジー企業が、顧客ニーズを深く理解し、あらゆる分野で伝統的企業とは比較にならないスピードで新しいサービスを産み出していることに危機感を持ち、自身の会社も変化に柔軟でイノベーティブな組織に変革していく必要性を感じていました。しかし、これまで規制に守られた金融業で経験を積んできた社員のなかには、デジタルの脅威や、自身が変わる必要性を理解できない人も少なくありませんでした。

 そこで、最初に始めたことは社員の意識改革でした。2015年から、リーダー層がデジタル変革に必要なマインドセットとスキルを身につけられるように、スタートアップと実際のビジネス課題の解決方法を考えながら、デジタル変革に必要な考え方を学ぶ4~5日間の研修を実施しました。このほかにも全社員向けの3日間のマインドセット変革ブートキャンプや、教育の場としてのハッカソンの実施、若手がシニア層のメンターとなる場などを提供し、多面的・継続的な意識改革を図りました。2017年には、全社員の40%に当たる1万人がデジタルに必要なマインドセットを獲得することを目的に約16億円の投資を行いました。

 また、こうした意識改革に加えて、e-learningや座学のセッションを組み合わせ、デジタル事業のビジネスモデルやアジャイル開発の方法論、業務におけるテクノロジーの活用方法などを学ぶ機会も提供しました。一例を挙げると、将来不要となるコールセンターのオペレーターや支店の窓口業務従事者など1500人に対して、18カ月のコンバージョンプログラムを提供しています。このプログラムでは、リスキル後に可能になる仕事内容と必要なスキルを明示し、最大1カ月の座学トレーニング後、6カ月のOJTを実施しました。これによって、たとえば、支店のバックオフィス業務を行っていた50代の社員が、その業務知識を活かして口座開設やローン申請に関する多様な顧客ニーズに対してオンラインを駆使し提案・アドバイスを行う業務に転身するなど、多くの成功事例を創出しています。