25年の歴史があるマイクロソフトのAI

 DXの実現のために、マイクロソフトが注力しているのがクラウドのインテリジェンス化。特に人工知能(AI)である。大谷氏は、「マイクロソフトのAIには、25年にわたる歴史があります。現在、約9000人規模の研究者、エンジニアがAI分野に取り組んでいます。研究成果として、声を聴く、顔を認識する、会話をする、翻訳をするなど、いくつもの作業において、AIは人間の能力を超えています」と話す。

 例えば、人物の顔認識では、人の認識率は95%だが、同社AIの認識率は97%だ。AIの研究成果は、Microsoft Officeや検索エンジンBing、ゲームサービスのXboxなどにも活用されている。また、「決定(Decision)」「音声(Speech)」「言語(Language)」「視覚(Vision)」「検索(Search)」の5つの分野で、文章構造の解析や表情からの感情判定、テキスト読み上げなど約30種類の学習済みのAI機能を提供するCognitive Servicesも展開している。

 大谷氏は、「カスタマーサービス用のAIや、売上予測のAIを開発するとき、ゼロから開発すると、時間や工数、コストがかかり過ぎます。Cognitive Servicesを利用すれば、独自データを追加学習させるだけで、自社オリジナルのAIをスピーディーかつ安価に実現できます。収集したデータにAIで加工や分析をして、使える形で現場に戻すことができます」と話しています。

DXレポートでは、多くの企業がレガシーシステムの保守にITコストの9割以上をかけていると報告されている。レガシーシステムの1つとして、製造業を中心に多数の企業においてローカルなITシステムの上で運用されている統合業務パッケージにSAP ERPがある。このSAP ERPは、2025年にサポート期間が終了するため、それまでに最新バージョンであるSAP S/4HANAに移行しなければならない。これは「SAPの2025年問題」と呼ばれ、影響が懸念されている。

 SAP S/4HANAに移行する場合、Microsoft Azureを基盤とすることで効果的にDXを実現できる。一方、SAP S/4HANAに移行しない場合は、Microsoft Dynamics 365に移行することもできるとマイクロソフトは説明する。Dynamics 365は、マーケティング、セールス、リテール、サービス、ファイナンス、オペレーションなど、顧客との接点と業務の最適化を支援する統合ビジネスアプリケーションである。Dynamics 365を利用することで、DXの根幹となる基幹システムをクラウド上で効率的に運用することができる。

 「一般的にビジネスアプリケーションは部分最適で導入されることが多く、データがサイロ化(孤立化)してしまいます。そのため、マーケティングとセールスが違うデータで顧客分析をすることになり、顧客の状況を的確に判断することが困難になります。Dynamics 365は、業務に関わるアプリケーションを有機的につなぐことができるので、統合されたデータに基づいた効果的なデータ分析が可能になります」(大谷氏)。