少子高齢化の進展、生産労働人口の減少に伴う人手不足、人材流動性の加速など、日本の製造業を取り巻く環境が大きく変化している。なかでもサービス部門にはその深刻な影響が現れており、直面している課題を一つ一つ解決していくことが必要だ。マイクロソフトが製造業イノベーションに向けたリファレンスアーキテクチャー(ベストプラクティスに基づく技術適用例)として打ち出したコネクテッドフィールドサービスのシナリオが、解決への取り組みを支援する。

日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 製造営業統括本部 製造業ソリューション 担当部長 鈴木靖隆 氏

製造業の持続的成長のために必要なサービス部門のプロフィットセンターへの転換

 多くの製造業のビジネスは、これまで“モノ売り”が中心だった。工作機械であれ、建設機械であれ、自社製品をイニシャルで販売するスタイルだ。日本の顧客は品質の高い製品を購入すれば、レベルの高いサービスもまた提供されると期待するのが常である。一方でメーカーも、顧客との良好な関係性を築くために、その製品の正常状態を維持するためのメンテナンスや修理などのサービスを提供している。

 ここであらためて捉え直す必要があるのが、モノづくりに誇りを持ち投資してきた日本の製造業に共通して見られる「製品にこそ価値がある」とする考え方で、サービスはその付随品として軽視されがちだったことだ。そうしたなかで顧客は「製品を購入したらメンテナンスサービスは当たり前」と考えるようになり、「メンテナンスサービスも重要な価値である」という意識が根付いてこなかった。

 これに対して欧米や中国の製造業はどうか。高品質のモノづくりでは日本の製造業に追いつくことができないため、付加価値を生み出す源泉としてサービスを捉え、先行的な投資を行ってきた。この結果として、UberやAmazonに代表されるような、いわゆるディスラプターがより洗練されたサービスの提供を開始し、モノづくりの本家たる日本を置き去りにしようとしている。モノづくりに高いプライドを持つがゆえに発想の転換が遅れた日本の製造業との間に、ここに来て大きな逆転現象が起こっているのが実情だ。

 日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 製造営業統括本部 製造業ソリューション 担当部長の鈴木 靖隆氏は、「日本の製造業が持続的に成長していくためには、サービス部門をコストセンターから脱却させ、自らが収益を生み出すプロフィットセンターに変えていく必要があります」と説く。

 日本の製造業はサービス分野で欧米の製造業の後塵を拝してしまったが、今ならまだ間に合う。手の届かないところまで距離を離されてしまう前に、日本の製造業ならではの強みを生かしたサービスのモダナイゼーション(近代化)を図っていくことが急務である。これが「モノ売りからコト売りへ」のキーワードに象徴される、製造業のビジネスモデル変革の本質だ。「マイクロソフトはこの動きを『Product as a Service(製品のサービス化)』と呼んでいます」と鈴木氏は語る。

 例えば英国のロールスロイスは、自社が製造する航空機エンジンにセンサーを取り付け、測定したデータおよびそれを分析した情報を、空港で待機している整備士に随時提供する仕組みを構築した。これにより迅速な整備や部品交換が可能となり、航空会社にとっての至上命題である「航空機の稼働率向上」に貢献した。さらに、航空会社に対して「どの飛行ルートをとれば燃料消費を抑えられる」といった情報も提供する。まさに、かつてない付加価値を提供するProduct as a Serviceの具現化だ。現在ロールスロイス社は、このサービスを「Power By The Hour」として体系化し、「エンジン出力×飛行時間に応じた従量課金」のビジネスモデルで展開している。