「O2O(Online to Offline)」から「OMO(Online Merges with Offline)」へーー。カスタマージャーニーにおけるすべての顧客接点で、パーソナライズされた購買体験を提供し、顧客とのエンゲージメントを高める新たなビジネスモデルの構築が、現代の小売業に求められている。OMO実現の方策を、日本マイクロソフトが開催したプライベートセミナーの内容から探っていく。

ウォルマートが戦略的協業に乗り出した背景とは

 店舗小売業がインターネット通販(EC)やオンラインマーケティングに乗り出した初期の頃は、オンラインで接点を持った顧客をリアル店舗へと誘導する「O2O」が、マーケティング戦略上のキーワードの一つとなっていた。

 しかし、デジタル技術が飛躍的に進化した現在においては、オンラインとオフラインをデジタルで融合し、すべての顧客接点でパーソナライズされた購買体験を提供することで、顧客とのエンゲージメントを高める新たなビジネスモデル「OMO」の実現が求められるようになってきた。

 そこで、日本マイクロソフトでは、「デジタルシフト・OMO顧客戦略最前線」と題したセミナーを、流通業関係者を対象として開催した。

 1人目の講演者として登壇した日本マイクロソフトの兼城ハナ氏は、「小売業における店舗顧客接点最前線」をテーマに、デジタルを活用した購買体験の変革が進みつつある状況を、豊富な事例を元に説明した。

 冒頭で紹介したのは、世界最大の小売業である米ウォルマートが2019年10月にスタートさせたばかりの新サービス「インホーム・デリバリー」である。これは、ウォルマートのECサイトで注文を受けた商品を、配達員が顧客の自宅室内にまで届けるサービスである。生鮮食品や乳製品などであれば、冷蔵庫に収納するところまで配達員がやってくれる。

米ウォルマートはネットで受注した商品を、配達員が顧客の自宅室内にまで届けるサービスを始めた(写真はウォルマート広報資料より)

 ウォルマートの配達員はウェアラブルカメラを装着しており、室内に入ったり、冷蔵庫に商品を納めたりする様子を顧客はスマートフォン(スマホ)を使って映像で確認できる。配達員が顧客の留守宅に入るときは、スマホでドアの鍵を解錠できるスマートキーシステムを使う。

 スマートキーシステムを使って不在時でも家の中まで荷物を届けるサービスは、実はアマゾン・ドット・コムが一足早く、米国の一部地域で始めている。ウォルマートのインホーム・デリバリーはこれに対抗するものであり、冷蔵庫の中にまで届けるという点で、より顧客に近づいたサービスと言えるだろう。「ECが普及した現代の小売業の競争は、ラストワンマイルを競うステージから、最後の数ステップを競うステージへと移行しつつあるのです」と、兼城氏は指摘する。

 ウォルマートの米国でのEC売上高は、直近の2019年8〜10月期で前年同期比41%増加した。ここ数年は同様のペースで伸び続けており、ウォルマートが管理する顧客データや処理する受注・配送データは飛躍的に増えている。同社は2018年7月、マイクロソフトと5年間の戦略的パートナーシップを結ぶと発表、マイクロソフトのクラウドサービス「Azure」やマイクロソフトが持つAI、IoTなどの技術を活用したオペレーションの革新や顧客の購買体験の変革に取り組んでいる。

 ウォルマートがこのようにマイクロソフトとの戦略的な協業に乗り出したのは、小売業を取り巻くデータが幾何級数的に増加していることが背景にある。コンサルティング会社の米マッキンゼー・アンド・カンパニーによれば、2020年には世界中で2000億個のデバイスがIoTでつながると予測される。世界はますますデータで溢れかえることになるわけだが、「この膨大なデータをどう活かすかが、小売業に求められている」(兼城氏)のである。