HP、スターバックスなどもコネクテッドコマース化を進める

 米国では2018年時点で43%の消費者がベッドの上で買い物を済ませているというデータがあり、ショッピングのモバイル化がますます進んでいる。ただ、このデータは、裏を返せば60%近くの消費者がいまでも店舗で買い物をしていることを示している。「OMOによって、オンラインでもオフラインでもパーソナライズされた購買体験を提供する『コネクテッドコマース』を実現できれば、小売業は大きな成長機会を得られる」と兼城氏は語る。

 とはいえ、「お客様のモバイルにおけるカスタマージャーニーを把握できている」と回答した企業は、わずか20%(*1)という調査結果があり、現状ではほとんどの企業が、自社の顧客がモバイルデバイスでどんな商品やサービスを見たかのかという基本的なデータすら把握できていない。

*1 出所:「The 2016 State of Digital Transformation」(米Altimeter)

 こうした大多数の企業にとっては、コネクテッドコマースの実現を可能にするマイクロソフトのソリューションが大いに役立つだろう。マイクロソフトは、オンラインとオフラインの販売データや在庫データ、顧客データなど小売業が持つあらゆるデータを関連付けながら統合されたデータベースとして管理し、データ分析にAIを適用することで顧客の行動に対する洞察を得て、顧客一人ひとりに最適化されたマーケティング活動へとつなげる一連のアクションをクラウド上で完結できるプラットフォームを提供している。

 兼城氏は、こうしたソリューションを活用している企業の事例も紹介した。例えば、PCやプリンターなどを主力製品とする米HPは、コールセンターで年間600万件以上の問い合わせを受けている。コールセンターの業務を効率化するために同社では2017年から、テキストや音声で自動回答するチャットボットを導入した。

 チャットボットが回答できた問い合わせ件数は、最初の1年は全体の15%程度だったが、チャットボットに適用しているマイクロソフトのAI機能「Microsoft Azure Cognitive Service」の音声認識、文字認識が学習効果によってその精度をアップさせ、いまでは問い合わせの70〜80%に回答できるようになっている。合計で5万ページに及ぶ取り扱い説明書を人が検索して回答する作業は、大幅に減った。

 米大手百貨店のメーシーズもコールセンターで、チャットボットの一種である「バーチャル・エージェント」を導入。ECと店舗の在庫情報、顧客の注文データ、商品の配送データなどを管理するそれぞれのシステムと連携しており、ECで注文した商品の配達日について問い合わせがあった場合に、配達予定日を回答するだけでなく、最寄りの店舗に在庫があるのでそこに行けばすぐに受け取ることができるといったリコメンドをできるようになっている。

 HP、メーシーズの両社は、コールセンターで働くオペレーターのトレーニングもチャットボットが担当、トレーニングコストの削減につなげている。「いまやAIはそこまで、できるようになった」(兼城氏)のである。

 また、米スターバックスでは、店内にあるエスプレッソマシンなどの機器をIoTデバイスで接続、稼働状況をモニターしている。収集した稼働データはAzure上に集約、機器の不具合が起きる前にメンテナンスを行うことにより、機会損失を防ぐだけでなく、従業員はドリンクの提供や接客により多くの時間を割けるようになった。

 IoTデバイスでは、使われた豆の種類やコーヒーの抽出温度、水質など十数種類以上のデータも収集している。これにより、水質や豆の種類、気候などに起因する味のばらつきを極限まで抑え、全店の味の平準化ができるようになったため、顧客満足度の低下を防ぐことができる。

 今後は在庫データやPOSデータ、会員情報などと組み合わせ、地域や時間帯ごとの特性に応じたマーケティングや、一人ひとりの好みに合わせたフレーバーのレコメンドなどにも活用していく予定だ。