経済産業省が昨年発表したデジタルトランスフォーメーション(DX)レポートでは、「2025年の崖」と呼ばれるDXの阻害要因について問題提起がなされ、危機感を抱く企業は多い。これを乗り越えるために、どのようにDXの実現に向けた次の一手を打てばよいのだろうか? 先ごろ日本マイクロソフトが主催したプライベートセミナー「課題解決のデジタル変革」では、DXの最初の一手となる具体的なユーザー事例を交えた濃密なセッションが繰り広げられた。

あいおいニッセイ同和損害保険はどのようにデジタル変革を進めたか?

 保険業界でRPA、IoTなどのテクノロジーを基軸に、DXによる業務プロセス改革に果敢に挑んでいるのが、あいおいニッセイ同和損害保険だ。セミナー基調講演では、同社代表取締役 副社長執行役員の黒田正実氏が、保険会社のデジタル変革の基本的な考え方を披露した。

あいおいニッセイ同和損害保険 代表取締役 副社長執行役員 黒田正実氏

 いま保険業界は、少子高齢化などによる国内市場の縮小やインシュアテックと呼ばれる技術革新など、生き残りをかけた変革期に突入している。そこで同社は事故対応の新しい姿としてテレマティクスによる自動車保険損害サービスを開始。通信/GPS機能付きのドライブレコーダーを通じて、オペレーターは事故の状況を容易に取得できる。

「ドライブレコーダーの映像をデータ化し、相手の状況を確認できれば、ビデオ判定によって1日で保険金を支払う、そういうことが技術的に可能な時代になりました。損害保険業界も、ユーザーニーズをキャッチアップし、変わらざるを得ない状況です」(黒田氏)。

 このような変化に追従しサービスを高度化していくには、その土台として、まず社内の業務プロセスを徹底的に見直し、デジタルにシフトする必要がある。実用段階を迎えたRPA(Robotic Process Automation)やその他のテクノロジーで、従来のルーチンワークを自動化し、コア業務と新たな業務に付加価値を求めることがポイントだ。それにより、いままで取り組めなかった創造的な業務に時間を割り振り、変革につなげていく。

 同社では、DXの推進力として経営ボード直結のICTプロジェクトを立ち上げ、既存ビジネスの効率化を推進する「業務改革」と、新商品開発などの事業に専念する「事業開発」の2つの軸でチームを構成。ただしDXを定着させるには、トップダウン施策だけでなく、現場が自ら変革できる下地を作らなければ、ビジネスチャンスの芽は出ない。

 黒田氏は「デジタルツールの活用、デジタル人材の育成、業務変革の文化醸成、迅速な決定のプロセスを回せることが大切です。この循環を社内に組み込み、自律的な見直しと新技術の取り込みを継続していくことが重要になるでしょう」とまとめた。