「2025年の崖」がいよいよ迫り、民間企業ではデジタル化およびデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが急ピッチで進められている。一方、行政の手続きや、建設業など一部の業種では、旧態依然とした業務が残り非効率なままとなっている。ただ、デジタル化が遅れている業界ほど、効果的なITツールを導入できさえすれば、大きな効果が得られる可能性を秘めている。ここでは、誰でも現場の業務アプリケーションを短時間かつ簡単に作れる「Microsoft Power Apps」を活用し、成果を上げつつある経済産業省と日揮グローバルの事例について紹介する。
なぜ日本の行政のDXは進まないのか?
2019年に行政手続きの原則オンライン化を推進する「デジタル手続法」が国会で成立し、政府全体でデジタルガバメントの取り組みが進められている。なかでも中小規模の行政手続きに関して、利便性を広げるための具体的な方策が急務になっているという。
現在の行政サービスの課題について、経済産業省 商務情報政策局でデジタル化推進マネージャーを務める酒井一樹氏は次のように危機感を募らせる。

「民間サービスは仮想化やクラウドを活用して、飛躍的に進展しています。その一方で、行政サービスは一部の電子申請のみに留まり、民間と質の差が急激に開き、見過ごせないレベルになっています」
いまや国内行政におけるITを活用したサービスレベルの低さが、日本の生産性を棄損しているといっても過言ではない。海外では先進国だけでなく、エストニアやインドといった新興国も先進的な取り組みを行っている。
酒井氏は「しかし、日本の行政は、いまだに窓口での対面や、紙を中心とする手続きが大多数を占めている状況です。こういった状況を変えなければ、いつまでも生産性は向上しませんし、国民や事業者の利便性も広げられないでしょう」と指摘する。
もちろん、デジタル化の遅れは行政側も認識している。では、なぜデジタル化が進まないのだろうか? その大きな理由は、業務の手続きが紙ベースで、いくつもの部署を回らなければならないなど、複雑かつ非常に種類が多いため、業務プロセス自体を見直すところから行う必要があったためだ。
法令に基づく手続きは、全体で5万8000種類もあり、年間で合計21億件以上もの手続きが発生している。だがこのうち年間10万件以上行われる手続きは、約900種類しかない。これを合計すると件数ベースで98%と、一部の手続きがほとんどを占めている状態だ。
しかし問題なのは、発生件数が年間10万件未満の「中小規模の行政手続き」と呼ばれるものだと酒井氏は指摘する。さらに、実態がきちんと把握されていない件数不明の手続きも多くある。年間10万件未満の手続きと、件数不明の手続きを合わせると、その種類は約5万7000と圧倒的だ。これらの手続きをあまねくデジタル化するためには、効率のよい手法を考えて進めていかなければならない。
