経産省でもDX室を設立
そこで政府はデジタルガバメントの取り組みに本腰を入れ始めている。2018年には経済産業省内でデジタル化推進体制を横断的に構築するため、DX室を組織化した。

技術面ではCIO補佐官のリーダーシップのもと、デジタル化推進マネージャーが個別プロジェクトを担当して進めているのが、誰もが使える「法人デジタルプラットフォーム」だ。
「たとえば、法人関連の申請の際に行政サービスごとに異なるIDではなく、1つの共通IDでログインできる『gBizID』をリリースしています。紙ベースで煩雑な手続きが必要だった補助金申請では、オンラインでワンストップで申請できる『jGrants』というシステムを開発しました。またデータ連携基盤や、オープンデータを利活用できる『法人インフォ』を整備し直し、新たに『gBizINFO』へ名称を統一します」
これらのデジタルプラットフォームに加えて、デジタル変革を実現するために、行政組織として3つの柱を掲げている。まずは「職員のリテラシー向上」だ。データに基づくエビデンスベースの政策を立案して実施。大臣へのレクチャーや総合職研修に、可能な限りデジタルツールを使い、リテラシーを高めている。
次は「スタートアップ・市民との協業」である。これは市民・企業・行政が交差するところで「GovTech」が生み出されるからだ。GovTechとは、Society 5.0*で行政にまつわるテクノロジーを指す。経産省では、これをもとに新技術や開発手法を導入し、「経産省と本気でアジャイル開発」や「ソーシャルハックデー」など、市民や企業を巻き込んだ多くのイベントにも取り組んでいる。
また同省は「IT専門人材の登用」にも積極的だ。現在、酒井氏を含む7人のデジタル化推進マネージャーが活躍しているが、ITサービスの開発能力を強化すべく、来期も4人の追加募集をかける予定だ。
Power Appsで、行政手続きのデジタル化を迅速に
そのような状況で、行政手続きのデジタル化を進める最新ITツールが注目されている。
「これまで省内でプロジェクトを回す際は、企画・立案から、予算化、要件定義、調達、契約、開発、展開といった手続きに年単位の時間がかかり、スピードが遅すぎました。また、どうしても大きく見積もられがちなリスクも上乗せされて費用も大きくなりがち。結果的にあまり使われないものになることも少なくなかったのです」と酒井氏。

従来の施策のままでは、あまりデジタル化の効果が得られない。そこで酒井氏らが検証しているのが、ビジネスアプリを簡単に開発できる「Power Apps」だ。ユーザーの利便性を確保しつつ、迅速かつ低コストにデジタル化を進められるツールとして期待も大きいという。
「Power Appsを使うことで、中小規模の行政手続きのデジタル化が、1日で実現できる可能性を秘めています。内製することによって、本当に実現したいことをデジタル化できると考えています。いま実証期間中ですが、来年度以降も新しいフェーズを見据えて、手続きのデジタル化に向けてチャレンジしていくつもりです」。