Mixed Realityを活用したショッピングシステムで購入比率アップ

 日本マイクロソフトの坂口勇磨氏は、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、VRとARを包含し、さらに進化させたMR(Mixed Reality:複合現実)を活用した最近の取り組みについて、デモンストレーションを交えながら紹介した。

 2020年には100万人がARを使って買い物をするだろうといわれているが(*2)、制約となっているのがスマホの小さな画面だ。マイクロソフトが提供しているMR用のヘッドマウントディスプレイ「Microsoft HoloLens」(ホロレンズ)ならば、実物大の商品のホログラムを空間上に3次元映像として表示できるので、スマホ画面の制約から解放される。また、ホログラムなので、商品の向きや色も瞬時に変更できる。

*2 出所:「Top Strategic Predictions for 2017 and Beyond」(米Gartner)

 イタリアの大手家具メーカー、Natuzzi(ナツッジ)はHoloLensを活用したショッピングシステムをロンドンの店舗で実証実験した。利用者はHoloLensを装着することで、購入を検討している家具を自宅の室内に置いた様子をホログラムで確認できる。家具の色を変えて、室内装飾とのカラーコーディネートを確かめるのも思いのままだ。

 ロンドンの店舗では、このショッピングシステムを導入したことによって、来店客の購入比率の上昇や購入までの決定時間の短縮化といった効果を実証できた。2020年末までには、世界のショールーム300店舗にMRショッピングシステムを導入する予定である。

イタリアの家具メーカー、NatuzziはHoloLensを活用したショッピングシステムを実証実験した

 マイクロソフトは、タブレットやスマホに3Dモデルを表示させる「Microsoft Dynamics 365 Product Visualize」というソリューションも開発した。家具や家電、さまざまな設備機器など大型製品のカタログを3D化しておけば、従業員が客先や工事現場などに出向いて、3Dモデルを使いながら商品について説明することができる。現場の映像に実物大の製品を重ね合わせて、顧客に大きさを実感してもらうこともでき、「従来とはまったく異なる購買体験を提供できる」(坂口氏)。

 続いて登壇した日本マイクロソフトの野村圭太氏は、Azure上で提供しているビジネスアプリケーション群「Microsoft Dynamics 365」の小売業版「Dynamics 365 Retail/Commerce」について説明した。

 Dynamics 365 Retail/Commerceは、小売業の課題解決に特化したソリューションである。「POS」「EC」「コンタクトセンター」「マーケティング」「ソーシャル」といったオムニチャネル関連、「店舗オペレーション」「サプライチェーン&ロジスティクス」「SFA」(営業支援システム)といったリテールオペレーション関連、そして「財務」「人事」「BI」(ビジネスインテリジェンス)というモジュールで構成される、包括的なクラウドソリューションだ。

 野村氏は、Dynamics 365 Retail/Commerceを活用することで、「顧客に最新のストアエクスペリエンスを提供すると同時に、インテリジェントな小売業を実現できる」と語る。

 最新のストアエクスペリエンスとは、ウェブサイトや電子カタログ、店舗、モバイルアプリ、コールセンターなどあらゆる顧客接点におけるデータを統合的に管理することによって実現されるパーソナライズされたクーポン配信や商品リコメンド、顧客一人ひとりの行動・購買履歴や好みなどを店舗従業員が確認したうえでの接客、すべての顧客接点で蓄積したデータに基づくマーチャンダイジング(品揃えや価格などの商品政策)の最適化などを指す。

 一方、全顧客接点のデータを店舗オペレーションやロジスティクス、SFAなどのアプリケーションでシームレスに活用できるようになれば、在庫確認やレポートなどの日常業務を単一アプリで管理することによる店頭作業の効率化、クロスチャネル分析による価格・プロモーションの最適化、実需要に応じた適時・適量の店頭納品や配送といったインテリジェントな小売業を実現できるというわけだ。

日本マイクロソフト ビジネスアプリケーション事業本部プロダクトマネージャーの野村圭太氏

 多くの小売業は、顧客管理や在庫管理、販売管理、物流管理などのシステムごとにデータがサイロ化しており、データを一気通貫で活用することができていない。これがパーソナライズされたエクスペリエンスの提供やオペレーションのインテリジェント化を阻む大きな要因となっている。

 さまざまなアプリケーションを有機的につなぐことができるDynamics 365 Retail/Commerceであれば、こうしたデータのサイロ化を解消し、一気通貫でのデータ活用が可能になるのである。まさに、「あらゆるチャネルでビジネスプロセスを統一し、小売業にエンドツーエンドでソリューションを提供する」(野村氏)と言えるだろう。