●組織の目標と一致させる

 アイデアが組織の重要戦略やミッションと一致しない場合、それを追求することは時間と資源の無駄遣いになる可能性が高い。

 ある架空の例を挙げよう(私たちが調査した職場の多くでよく見られたものだ)。新製品開発責任者のイバンは、あるネットワーキングイベントに出席して、仕切りのないオープンなオフィスが最近のトレンドであることを知った。これは、部門間のコラボレーションを促すかもしれないと考えて、イバンは上司を説得し、会社の一フロアを完全にオープンなデザインに変えた。莫大な費用がかかった。

 ところが多くのスタッフは、新しいデザインは問題だらけだと感じた。なにより、うるさくて気が散るという。多くのスタッフは別の階への移動を希望した。もしイバンが、仲間の日常業務(集中力を要する仕事)にもっと注意を払っていたら、より効果的に生産性を高める工夫ができただろう。

 その教訓は、新しいアイデアに着手するときは、現状をよく見て、その変更が本当に必要かどうかをよく考えることだ。その結果、変更が必要だという結論に達したなら、そのコンテクストでは、どんな変更が適切か考えること。変化が必要だからとりあえず変える、という事態は避けること。組織の目標を踏まえて、自分のアイデアを効果的に実行できる方法を考えよう。

 重要なのは、上記の3つの要素をバランスよく組み合わせて、賢明な積極性を実現できるようにすることだ。

 自分のために積極的な行動を起こすけれど、組織や他人のニーズはまったく考えていないという人は、よくいる。これは賢明ではないし、効果的な結果をもたらす可能性も低い。同じように、他人のことをよく考えてくれるけれど、積極的にやりすぎて疲弊するような人も成功しないだろう。

 したがって賢明な積極性とは、知恵の中心をなすもの、すなわち緊張関係にある要素の管理(この場合、外的利益と内的利益のバランスをとること)を実現できなければならない。

 組織は、3つの要素をバランスよく実践する方法を従業員に指導することで、賢明な積極性を促進できる。特にマネジャーは、こうした行動の模範となり、部下たちに同じような行動をとるよう促すべきだ。採用担当者や人事担当者も、応募者を評価する際に、この3つの知恵のバランスをとる能力を考慮することで、組織な賢明な積極性を支援できる。行動面接(過去の行動の理由や手法を説明させる面接)では、応募者が積極的かどうかだけでなく、その積極性がどれだけ賢明なものだったかを測定する質問を用意するべきだ。

 こうした工夫をすることで、組織は、従業員が正しいことを、正しい方法で実行するのを促すことができる。


HBR.org原文:When to Take Initiative at Work, and When Not To, August 21, 2019.

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シャロン K. パーカー(Sharon K. Parker)
オーストラリア研究会議(ARC)フェロー、カーティン大学経営学教授、同大学センター・フォー・トランスフォーマティブ・ワーク・デザイン所長。専門分野はワークデザイン。『アカデミー・オブ・マネジメント・レビュー』や『アニュアル・レビュー・オブ・サイコロジー』などに論文を発表。過去に『ジャーナル・オブ・アプライド・サイコロジー』の編集補佐を務める。現在、『アカデミー・オブ・マネジメント・アナルズ』の編集補佐。

イン(・リナ)・ワン(Ying (Lena) Wang)
オーストラリアのRMIT大学スクール・オブ・マネジメント上級講師。専門分野は人格と個人の違い、従業員の積極性、多様性管理。『アニュアル・レビュー・オブ・オーガニゼーショナル・サイコロジー・アンド・オーガニゼーショナル・ビヘイビア』や、『ジャーナル・オブ・オキュペーショナル・アンド・オーガニゼーショナル・サイコロジー』などに論文を発表。