マイクロソフト自身がDXを進め、同じ社員数で収益増を実現
実は、マイクロソフト自身がこの5年で大きなデジタル変革を遂げてきた。製品ではOS(「Windows OS」)や生産性ツール(「Office」)に加え、クラウド事業「Microsoft Azure」を重要な柱とし、ビジネスモデルでは恒久ライセンスからサブスクリプションへとビジネスモデルの移行を進めている。また属人的な判断からデータに基づく判断を採用し、最新テクノロジーを活用した社内プロセスへの変革を行ってきている。

変革を推進するのは、2014年にCEOに就任したサティア・ナデラ氏だ。背景にあるのは、「いつか近い将来、崩壊(ディスラプト)するという恐怖心」だ。「スマートフォンなど莫大な投資をして失敗したプロジェクトがたくさんある。変わらなければ、変わり続けなければならないと思っているからこその貴重な失敗だ」と鈴木氏は冷静に分析する。
そこで、ナデラCEO自らが社員に対し繰り返し自社のミッションやカルチャーなど自社のビジョンを説明し、なぜDXが必要なのかをマインドセットと合わせて浸透させ、各社員の役割に合わせた細かな研修プログラムも進めているという。
組織もCIO(最高情報責任者)を廃止してCDO(最高デジタル責任者)に一本化し、ビジネス目標を達成させるためのデジタル部門へと変革を行った。具体的には予算配分と優先度を集中させるとともに、サーバーの稼働率などのIT運用メトリクスではなく、企画・財務・人事などの本社部門および製品開発・販売部門が持つビジネスKPIをCDOがコミットしている。DX体制強化の面では、ビジネス部門との連携を強化し、データドリブンな経営のためのデータサイエンティストや、ビジョンをわかりやすく伝えるUXデザイナーをアニメーションスタジオ出身者などから起用しているそうだ。
製品開発の手法も変え、2015年の「Windows 10」からDevOpsによるアジャイル開発を採用。1つの機能単位を“スプリント”として約3週間で開発からテストまで行い、ローンチする。「3年間変わらないWindowsではなく、毎週少しずつ成長していく。これはクラウド化やサブスクリプションモデルにも合った開発手法だ」(鈴木氏)。
変革の成果は出てきている。時価総額はこの20年間通して世界トップ5位に唯一生き残りつつ、さらに2014年からみると約4倍になった。この間、従業員数はほとんど変化していないというから、まさにDXを実現していると言える。
なぜうまくいっているビジネスから変革すべきなのか?
では、DXをどこから始めれば良いのか?――鈴木氏は迷うことなく、「自社の最もうまくいっている事業、根幹となる事業からスタートすべき」と断言する。
「自分たちのビジネスを変革により成功させるのがDXだ。そうであれば“ホラーストーリー”を考えてみるといい」(鈴木氏)。今はうまくいっていても、3年後、5年後はどうなるか?――最悪のシナリオを想定し、なぜDXをやらなければならないのかを突き詰めて考えることが必要、というのだ。
影響の少ないところで小さく始めて、うまくいけばスケールするというのとは真逆のアプローチだ。しかし、本当の変革を成し遂げるためには、避けて通れない。「経営的観点から見ても、崩壊してはいけないところを守り、さらに伸ばすことこそが意味を成す」と鈴木氏。「会社の収益基盤を変革させようとなるから、必然的に全社員を巻き込むことができる」と続ける。
例えばコベルコ建機は、“建設現場で働く人の働き方を大きく変え、豊かな生活、社会を実現する”というビジョンを掲げ、マイクロソフトのデジタルアドバイザリーサービスを採用し、DXを推進することにした。建設業界は現在好調で同社も成長を続けているが、まさにそこに切り込んだ――自社の建機が売れなくなったらどうするのか?

高度な操作技術を持つ建機技術者(オペレーター)は高齢化しており、若手も大きく不足している。どうしたら若い人が関心を持ち、操作技術を上げ、さらにはコベルコ建機を選んでもらえるのかをターゲットにDXを進めた。具体的にはAIやIoTなどのテクノロジーにより、快適・安全な作業環境、テレワーク化による働く時間と場所の制約解消、作業内容とオペレータスキルの評価・マッチングなどを実現するプラットフォームを、開発期間を大幅に短縮するアジャイル手法によりDXを進めているという。