●焦点が絞られている
模範的イノベーターは、漸進的イノベーションや小さなプロセスの改良よりも、画期的すなわち「ホライズン3」級(「まったく新しいビジネスの創造」と私たちは定義した)の仕事に多くの時間とエネルギーを注ぐ。漸進的な改良はコアビジネスの担当者に任せて、中長期的に利益をもたらすアイデアを発掘したり、それを実験したりすることに時間を費やす。
これは、そのチームの役割やミッションが極めて明確に定義されているためかもしれないし、活動期間が長くなるにつれて、大きな賭けを重視したポートフォリオに会社の理解が得られるようになった結果かもしれない。
●社内の重要パートナーと協力している
模範的イノベーターでは、イノベーション推進プログラムが戦略部門、ベンチャーキャピタル部門、そして経営開発またはM&A部門という、社内でカギとなる3つの部門と緊密に協力していた。イノベーション推進プログラムが、これら3部門のいずれかに組み込まれているか、これらの部門と「極めて協力している」と答えた会社の割合は、回答者全体よりも模範的イノベーターではるかに高かった。
イノベーション推進プログラムが、歴史ある部門からサポートも情報も得ずに、一匹狼のようにジャングルを駆け抜けようとすると、非常に長く困難なプロセスになるのはこのためだ。
●大量の人員を投入している
回答者全体で見ると、最も一般的なイノベーション推進チームの規模は10人以下だった。ところが模範的イノベーターに限ってみると、10~24人と答えた企業が約25%、100人以上と答えた企業が約33%あった。
小さなチームでも、テクノロジーの発掘や人材開発、事業部門の緊急の要請に「とりあえず応える」ことはできるだろう。だが、アイデアチャレンジやハッカソンを開催するだけでなく、大きな利益をもたらす新しいプロダクトを構築または実験するためには、もっと大規模な人的資源(常勤者、契約スタッフ、「オンデマンド」的な外部人員を含む)を投じる必要がある。
●インセンティブ制度がある
模範的イノベーターは、イノベーション活動への参加を奨励する、さまざまなインセンティブを用意していることが多い。それは表彰や報酬の形をとることもあれば、プロジェクト育成活動に専念する時間の場合もある。ボーナスやシード資金をもらえたり、自分が関わったプロダクトの利益配分を受けられたりする場合もある。
こうしたインセンティブをまったく設けていない模範的イノベーターもあったが、割合は低かった。重要なのは、よく考えたインセンティブを用意して、より多くの社員に中核業務だけでなく、新しいアイデアの考案や試作や商品化に参加させることだ。
●インパクトを常時チェックしている
イノベーション推進プログラムをスタートさせた時点では、その活動が会社の業績に与えるインパクトについて、それをチェックする指標を持たない企業は多い(私たちの調査では41%)。だが、模範的イノベーターは違う。このグループのトップクラス企業は例外なく、何らかの「成績表」を作成していた。
最も一般的なチェック項目は、新しいプロダクトがもたらした利益や、効率性またはコスト削減、もしくは社内的な投資回収率だ。財務指標を取り入れることは、選択の余地のない当然のことだ。イノベーションや研究開発部門のリーダーが、自分たちの活動を持続・成長させたいと思うなら、それが会社にもたらす経済的価値を数字で示せることが必要不可欠である。
●文化的な衝突を克服している
2018年の調査では、イノベーション推進プログラムの最大の課題は、社内政治と縄張り争い、そして会社全体の方針との矛盾だった。残念ながら、これらは2019年も深刻な問題の上位を占めた。だが、模範的イノベーターだけを見ると、最大の課題は、適切なスキルを持つ社員の確保と資金調達だった。
一方、調査で「文化的な問題」とされた項目については、模範的イノベーターはさほど大きな問題として位置づけていなかった。どうやらイノベーション推進プログラムが長く続き、会社に大きな価値をもたらすようになると、企業文化で受け入れられる可能性も高まるようだ。
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模範的イノベーターでは、イノベーションは時間をかけて強化される筋肉のようなもので、わずかな結果を出すだけでも、相当な努力を必要とする。残念ながら多くの企業では、イノベーション推進活動は、年初に購入したトレッドミルのように、夢のようなビジョンを抱いて使い始めるものの、あっという間に放置される運命だ。
読者の会社は、模範的イノベーターの6つの特徴のいくつかを、すでに持っているかもしれない。だが、社内の障害を乗り越え、目に見える価値をもたらすイノベーション推進イニシアチブを構築するためには、6つ全部とは言わずとも、その大多数に、数年にわたってコミットする必要がある。
HBR.org原文:What Companies That Are Good at Innovation Get Right, November 29, 2019.

スコット・カースナー(Scott Kirsner)
企業のイノベーション担当幹部向けの情報サービス『イノベーション・リーダー』編集長。長年にわたり、『ボストン・グローブ』紙のビジネス・コラムニストを務めている。
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