“変化に対応できるシステム”を追求

 ビジネス環境の変化を受け、JTの営業部門も考え方や仕事の方法を変えることが求められている。当然、営業活動を支えるシステムも変えなければならない。従来、営業担当者が使っていた営業ポータルは2005年にフルスクラッチ開発で構築したもので、たばこ販売店のリストが中心だ。「トップダウンではなく、一人一人の営業担当者が自分自身で情報収集し、自律的に動くこと」(清川氏)を目指して、新しい営業活動を支援する仕組みの構築が始まった。

 営業体制を再編した2015年、従来の営業ポータルについて、パッケージ化によるリニューアルを検討したものの、予算やセキュリティへの懸念があり断念した。しかしその後、新しい活動となるお客様との直接コミュニケーションを支援するシステムが必要となり、2017年にパッケージを活用した新システム「QuickS」を構築した。

 QuickSはマイクロソフトのクラウド業務アプリケーション「Dynamics 365」を土台としており、要件としてはPCとタブレットの両デバイスへの対応、ユーザー数や利用期間を柔軟に変更できるクラウド化などがあった。既存システムへの影響を抑えるため独立環境として構築することにした。

「何をするのかまだ分からない。利用規模も分からない。使いながら考えるというスタンス。何が出てきても柔軟に対応できるものを構築したかった」と話すのは、営業活動におけるICT活用を進める同社の楠根健次氏(たばこ事業本部 セールスグループ 営業管理部 ICT推進チーム)だ。

 そこで、マイクロソフトの力を借りて「アジャイル(※1)っぽく」わずか3カ月半で基本機能を開発し、そのシステムを使いながら機能拡充し、名刺管理サービスなど他のサービスとの連携を進めてきた。「Dynamics 365」を選んだ理由については、「コスト」、そしてすでに導入済みの「Officeとの連携」の2つが大きなポイントとなった。最後は、パートナーのプロジェクトマネージャ(PM)の面談により決定した。

※1 アジャイル:ソフトウェア開発の手法の1つ。最初の段階では機能の細かい仕様までは決めず、比較的小さな機能単位で設計、開発、テストのサイクルを繰り返しながら、新たな機能を追加していき完成させる。開発中の仕様変更や新機能追加などの変化に柔軟に対応できる。
日本たばこ産業 たばこ事業本部 セールスグループ 営業管理部 次長 楠根健次氏

 QuickS構築で得られた知見はたくさんあるが、パッケージ化への拒否感が少なかったこと、開発が少人数で済んだことなどを楠根氏は挙げる。当初は独立環境で構築運用していたが、その後「Office 365」と同じ環境に統合し、シングルサインオンが可能となった。

「Teams」でコミュニケーションが変わった

 すでに社員の活動に変化は出ている。中でも、Office 365に含まれているチャットなどコミュニケーションツールの「Microsoft Teams」は、情報の共有の活性化に一役買っているようだ。

 支店でチームメンバーが全員そろう時間はなかなかない。だが、Teamsなら好きな時間に書き込んだり、読んだりできる。「役割分担にあたって重要な情報をやり取りできているようです。集まって話すより密にコミュニケーションが取れるという声も出ています」と清川氏。ある支店で有効活用されているのを見て、自分たちの支店でも使ってみようという良い連鎖反応が起き始めているようだ。また、転勤で別の支店に行った人が元の支店とのコミュニケーションを続けながら、ベストプラクティスや有益な情報を共有し合うといったことも起こっているという。

 ビジネスチャットツールでコミュニケーションが円滑になった例は珍しくはない。しかし、導入すれば成功が約束されているわけではない。JTの場合、Teamsの前に導入していた「Microsoft Yammer」で、デジタルでのコミュニケーションに“免疫”ができていたことが関係ありそうだ。新しいツールを導入したからといって「押し付けることはしません」(清川氏)というが、フォローはした。「IT部門がサービスを導入した後、システムの使用状況を見ながらフォローするという方針を取っています」と楠根氏は説明する。Teamsについては、セールスグループに対しては全支社で説明会を開催、幹部からのトップダウンに期待するとともに、スキルのある社員を“アンバサダー”として社員同士で使い方を広める、マイクロソフトが推奨するアンバサダー制度も活用しているそうだ。

 変化はTeamsによるものだけではない。Teamsをコミュニケーションハブとして、活動内容をPowerPointでまとめて掲載したり、Teamsでの報告にスマートフォンからの画像投稿やExcelファイルを使ったりする動きも出始めているという。