「Power Platform」で自分たちの業務に合わせたシステムを作る
現在JTでは、既存の営業ポータルとQuickSを統合した新しいシステムの構築を始めるところだ。土台は「Dynamics 365」、コンセプトは“Power to the people”――変化に対応する人をサポートするための柔軟なツールと環境の提供を目指す。
新しい営業スタイルはまだ見えていないし、一人一人異なる部分はシステムではカバーできない。そこで、“システムに足りないところは自分たちでカバーする”という姿勢を育み、「Office 365」などのサービスを組み合わせたり、RPAやチャットボットの活用を推進したりする。「ビジネスをする人が自ら変えていくことができる仕組みを目指しています」と楠根氏。
「Dynamics 365」をQuickS構築に採用したという実績もあり、同じくマイクロソフトの業務アプリケーション製品群である「Power Platform」への期待は大きい。Power PlatformはBI(※2)の「Power BI」、ワークフロー自動化の「Power Automate」、そしてビジネスアプリケーションを作成できる「Power Apps」などを含むデータ収集、解析、予測のためのプラットフォームだ。ローコーディング(※3)でアプリを開発できるため、プログラマーでない現場のユーザーが自分のスキルに合わせて必要な機能を作ることができそうだと期待している。
※3 ローコーディング(Low-Coding):ソフトウェアを作る際に、ブロックを組み合わせるだけでプログラミング可能なツールを使うなどして、人間がプログラムコードをほとんど書かずにすむこと。
新しい業務システムのコア部分はIT部門がDynamicsによって開発するが、新システムのユーザーとして見積もる営業部門5000人のうち、Office 365などを活用して現場の業務ツールを作成できるスキルがある人を1000人程度、さらにはローコーディングで新システムの画面カスタマイズや業務フローのカスタマイズアプリを作成できる人を100人ぐらい育てることができれば、と楠根氏は期待を語る。「誰かが作ったシステムを使うというのではない世界を作りたいんです。Excelを使うようにアプリが作れて、人工知能も活用できるといった世界が理想です」(楠根氏)。
全体の狙いについて清川氏は、「どのたばこ販売店様でどれだけ売れたか」から、「どんなお客様と関係をもち、それが何に結びつき、最終的にビジネスにどのようにつながるのかといったところを整理して可視化していきます」と説明する。変化する部分はDynamics 365のパッケージを作って必要な部分からアジャイル型で作り、商品の返品受付など独自のロジックが入った変化の少ない従来からの業務の部分はウォーターフォール型(※4)で開発する。
システムのカットオーバーは2021年4月を目標にしているが、段階的にリリースを進めていく計画だ。将来は、残るオンプレミス(※5)の部分もクラウド化していきたいという。
清川氏はいう。「一人一人が能力を発揮する、自律的である、関係性を持つ――この3つがそろわなければ目指す世界に行けません。それを実現するための基盤環境として、DXはなくてはならないもの」。それはJTの企業思想である「ひとのときを、想う」の実現にも通じる。「まず従業員の心が豊かでなければ」と清川氏――JTにとってDXとは、会社、そして社員一人一人の心を豊かにする改革の環境作りと言えそうだ。