すぐにできることは何か
まず、サプライチェーンへの影響緩和に向けて取りうる措置を、いくつか紹介したい。
●何をおいても従業員を守る
従業員の安全無事こそが最優先であり、彼らが貴重な経営資源であることは言うまでもない。2005年のハリケーン・カトリーナによる被害からいち早く立ち直った企業は、米国南東部に散在する全従業員の安否を追跡していた。プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)にいたっては、高台に地元従業員のための村をつくり、本人や家族に住まいと食糧を提供したほか、給料の前払いにまで踏み切った。
業務慣行の再考も必要かもしれない。2009年、氷雨を伴う暴風がケンタッキー州ルイヴィルを襲い、UPSの現地スタッフは荷物の仕分け拠点に出勤できなくなった。しかし、航空便は運航していたため、会社は他都市の従業員を空路でルイヴィルへ送り込み、仕分け拠点の稼働を続けた。このような代替性を発揮できたのは、業務内容と設備・機材が標準化されていたからである。
●健全な懐疑心を持ち続ける
突発的な惨事の初期段階では、正確な情報はごく限られる。政府が国民や産業界の平静を保ちパニックを防ぎたいという動機を持つなら、なおさらである。影響に関する報告書は、やや楽観的な基調になりがちだ。ただし、現地の人々は貴重な、より信頼性の高い情報源になりうるため、現地との連絡を絶やさないよう努めるとよい。
●供給停止シナリオを検討して、想定外の影響が生じる可能性を見極める
いわば想定外の状況を想定する。主力調達先が混乱の直撃を受けている場合には、特にその必要性が高い。
新型コロナウイルス危機の場合、中国の影響があまりに広く及んでいるため、想定外の事態はほぼ避けられないだろう。現状の在庫水準では当面の物資不足を補えないため、普及度の高い重要な部品・資材の広範な供給不足を覚悟しておくことである。
2005年、ハリケーン・リタがヒューストンとルイジアナ州西部に襲来し、この地域一帯の石油精製所を深刻な機能停止に陥れた。その約6ヵ月後に消費財メーカーは、石油由来の包装材が足りないという、思ってもみなかった事態に遭遇した。その原因は、リタの影響で原材料が品薄に陥ったことだった。多くの消費財メーカーが先を争うようにして、昔ながらの紙や段ボールを使った包装へと切り替えた。
●包括的な緊急対応センターを設置する
今日では、たいていの組織が緊急対応センターらしきものを設けているが、調査したところ、本社ないし事業部のレベルに限定される例が多いようである。これでは十分とは言えず、組織のより下層まで網羅した、きめ細やかな体制とプロセスが不可欠である。
同様のセンターは工場にも設けるべきである。これに伴い、コミュニケーションと調整に関する行動プラン、各職能部門の代表が果たすべき役割、コミュニケーションと意思決定の手順、顧客やサプライヤーをも網羅した緊急時行動プランを設けておくことだ。