サプライチェーンの構築方針を問い直す

 ごく最近までグローバル企業の大半は、原料や資材が世界各地を容易に行き来し、自社は世界で最も低コストの国や地域で調達、生産、流通を行えるという前提のもと、サプライチェーンの構築方針を決めることができた。

 米中の貿易摩擦、ブレグジット、そして現在では新型コロナウイルス危機が、この基本前提の妥当性を揺るがしている。具体的に今回の危機は、多くの供給源が同一の国や地域、さらには北米、欧州、ラテンアメリカといった重要市場から遠く離れた地域に集中した状態が、いかに脆弱であるかを如実に示している。

 サプライチェーンを速やかに組み替えたり、猫の目のように変わる世界各国の貿易政策、供給のダイナミクス、混乱などに即応したりするためには、従来とは異なる構築方針が必要なはずである。したがって核心は、「消費者への対応遅れが許容されない、変化の激しい環境下でうまく事業を展開するには、サプライチェーンをどう構築すべきか」である。

 複数の選択肢があり、どれを選ぶにせよ、リスク許容度と業務の融通性とのトレードオフが生じる。以下に具体的な構築方針を2つ紹介する。

 ●調達先を2つにする

 これは供給、生産、流通が停止した場合の備えになる。このような備えがあれば、混乱時のリスクを2つの調達先に分散できる(混乱が両方の調達先に及んだ場合は、この限りではない)。

 したがって2つ目の調達先は、主力調達先の本拠地とは異なる地域に位置するほうがよい。この方針を採用するとリスクは低減するが、管理や品質モニタリングのコスト、仕入れ単価は上昇する。また、発注を各調達先にどう配分するかによって、規模の経済性は変わってくる。

 ●現地で調達する

 これを実現するには、主力市場の各々に生産拠点を設けて、現地での調達を確保する必要がある。1つ目の案と同様、リスク分散効果を持つ。調達先が各所に散らばるため、規模の経済性は効きにくく、資本コストが大きくなるが、輸送費は抑えられる。

 以上、サプライチェーンのリスクを低減して対応力を確保するための多数の選択肢を、大きく2種類にまとめてごく簡潔に紹介したが、より詳細な分析と評価が必要である。

 構築方針を絞り込むには当然、コストはどの程度か、顧客要望への対応力や競争力への影響はどうかを、各案について比較検討しなくてはならない。最適案を一度選べば終わりかというと、そうではない。サプライチェーンの構築方針とその根拠となる戦略を、折に触れて批判的な視点から振り返るべきである。

 新型コロナウイルス感染症の流行のような世界的危機は予測できないが、サプライチェーンの備えをより万全にしておくことにより、危機の影響をやわらげることはできる。新たな危機に直面するつど一から始めるよりも、あらかじめプランを作成しておき、いざ混乱が起きたら中身を調整したうえで実行に移すほうが望ましい。


HBR.org原文:Prepare Your Supply Chain for Coronavirus, February 27, 2020.


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