(1)常に先のことを考えて、自社の取り組みを見直す
当然ながら危機の際は物事の先行きが予測不能で、時に状況が大きく変化する。そのため、常にメンタルモデルと計画を修正しなくてはならない。
最初は問題を無視していても、やがて現実を直視し、その状況への理解を深めていく。そして、危機対応計画を立ててそれを実行し、その後は復旧戦略を立て、さらには復旧後の戦略も立てる。最終的には、こうした一連のプロセスを振り返り、そこから学習する必要がある。
このプロセスは、CEO主導で迅速に進めるべきだ。社内の調整に時間を取られて、たえず変化する状況への対処が遅れることは避けなくてはならない。
一部の中国企業は、いち早く先のことを考えて、次の段階への移行を前提に行動し始めた。新型コロナウイルスの感染拡大が始まって間もない時期に、即席麺・飲料メーカーの康師傅(カンシーフ)は日々状況を検討し、自社が優先的に取り組むべき課題を見直していた。たとえば、同社は消費者の買いだめを予測し、大規模なリアル店舗を通じた販売ではなく、O2O(オンライン・トゥ・オフライン)のマーケティングやeコマース、小規模店舗を通じた販売に力を入れた。
また、感染拡大により一時閉鎖された小売店の再開予定を、たえずチェックしていたため、サプライチェーンを柔軟に対応させることもできた。そのおかげで、わずか数週間でサプライチェーンの50%以上が回復し、その期間に再開した小売店の60%に商品を供給できた。この割合は、一部のライバル企業の3倍に上る。
(2)トップダウンだけでなく、ボトムアップのアプローチも併用して、状況に柔軟に対応する
社内の足並みをそろえて素早く行動するためには、トップダウンのリーダーシップが不可欠だ。しかし、地域ごとに状況が異なり、予測不能な変化に対応しなくてはならない状況では、分権型のアプローチを採用して、現場がアイデアを発揮できるようにする必要もある。一部の中国企業はこのバランスをうまく取り、トップダウンで大きな方針を打ち出しつつ、その枠内で現場が新しいアイデアを生み出せるようにしている。
中国の400都市に6000軒のホテルを運営する華住酒店(ホワジュー)は、危機対応の特別チームを組織して、毎日会合を開いて対策を見直し、トップダウンでチェーン全体に指針を示した。
その一方で、社内の情報共有プラットフォーム(「フアトン」と名づけられたアプリ)を活用し、傘下のすべてのホテルと従業員に最新の情報を届けるよう努めた。これにより、それぞれのホテルは、感染状況や地元公衆衛生当局の方針など、地域の実情に合わせて会社の指針を修正して、実践することができた。
(3)社員に情報と安心感を与えるよう努める
感染症が爆発的に拡大しているような危機の際には、状況がたえず変化し、情報が新しくなるため、不透明感が強まりやすい。当局からの助言がなかったり、互いに矛盾する助言が流れてきたり、助言が古かったり、大雑把すぎて実際の役に立たなかったりする。
それに輪をかけて状況を複雑化させるのが、メディアの報道だ。さまざまなメディアが異なる視点の下、異なる情報や助言を伝える。社員は新しいやり方に適応する必要があるが、明確な情報と一貫した指針が示されなければ、それは難しい。
中国企業の中には、積極的に社員向けの指針を示し、社員の支援体制を築いている会社もある。中国最大手のキッチン家電メーカー、蘇泊爾(スポー)は、社員食堂での感染リスクを下げる方策や、異常事態が発生したときの対処法など、きわめて具体的な指針を社員に示した。加えて、早い時期から社員と家族の健康チェックを行い、予防グッズも確保した。
しっかり態勢が整っていた同社は、2月の第2週には素早く業務を再開し、生産ラインを再開できた。