ステークホルダーの多様性
企業には次のことが求められるようになった。より高次の目的意識を持ち、幅広いステークホルダーにもっと注意を向け、異なるステークホルダー間の利益をトレードオフにかけることだ。
したがってビジネススクールは、「ステークホルダー資本主義」に必要なスキルの研究と教育を行うべきである。ビジネス・ラウンドテーブルの声明とダボス宣言は、株主の優位性をただ受け入れるよりも、多様なステークホルダーにとっての利益を認識し促進せよと、企業に促す意思表明である。
こうした善意を現実のものとするために、ビジネススクールには以下が求められる。
・ステークホルダー資本主義の本質と、それがどんな影響をもたらすのかを教える。
・すべてのステークホルダーのニーズと関心について学べる科目を設け、彼らを株主価値の向上に資する取引相手として扱うべきではないことを理解させる。
・企業が幅広いステークホルダーのニーズにどれだけ対応しているかを測る、新たな指標をつくる。
・新しい評価手法を研究・開発する(例:管理会計とステークホルダー会計の新たな形式、投資成果を測る新たな指標、ステークホルダーの利益促進につながる新たな契約構造など)。
こうしたわかりやすい変更の他に、ステークホルダー資本主義において企業に求められるのは、さまざまなステークホルダー間で、もっと明白にトレードオフを行うことである。政府がある程度の指針を示してもよいが、企業は今後ますます、「誰が恩恵を得るのか」を決めざるをえなくなる。その選択に際し、ビジネスリーダーには公正の管理が問われる。
この意味を考えてみよう。「公正の管理(administration of fairness)」という言葉は、「正義」の定義である。つまり、これまで経営の管理(business administration)を課せられてきたMBA取得者に対し、これからは何が正義で、何が不正義かを判断するよう求めるということだ。
残念ながら、従来のMBAのカリキュラムは――その土台が経済学であれ、データサイエンスや心理学であれ――正義の問題について熟慮するための適切な教育を学生に与えていない。したがって、カリキュラムを再考して拡大する必要がある。
少なくとも、学内で思想家と教授者の陣容を拡大し、歴史、哲学、人文科学に通じた人材を招き入れねばならない。正義とは、正味現在価値よりも、はるかにわかりにくいものなのだ。