インクルージョン(包摂)の必要性

 企業は、もっと包摂性を高めるよう求められている。

 ならばビジネススクールも、そうあるべきだ。現存する研究で十分に立証されているが、多様性がより豊かな環境では、より優れた成果が生まれる。だがこれにとどまらず、今日のビジネススクールは、四半世紀後のリーダー人材を入学させて教育すべきである。2045年には世界のどの地域で、いまよりも優れた経営とリーダーシップの能力が必要とされるだろうか。

 多くのビジネススクールは男女の数の均等化に努めているが、それではまったく十分ではない。2045年に、世界のビジネスリーダーの6~7割が米国人である可能性はほとんどないが、これは現在の米ビジネススクールの大半における人種構成なのだ。

 したがってビジネススクールは、次世代に経営スキルが最も必要とされる地域から人材を見つけて教育するために、まさにいま積極的に手を差し伸べねばならない。

 筆者が所属するオックスフォード大学サイード・ビジネススクールでは、MBA学生の13%をアフリカ出身者が占めるという形で、これが具現化されている(ビジネススクール全体の平均は2%)。この取り組みは、アフリカ大陸の未来のリーダーに貢献するためだけでなく、残り87%の学生に、世界の重要な地域について学ばせるためでもある。

 包摂性向上の必要性をビジネススクールが真剣に捉えるならば、MBA教育の順位を決定づける現在の指標のうち、「収入」を全面的に否定すべきだ。『フィナンシャル・タイムズ』紙のMBAランキングを決める指標のうち、「MBA取得者の卒業3年後の収入」には43%の重みづけがされており、他の同類のランキングではさらに重きを占めている。

 しかし、MBA卒業生に関する同紙の独自データによれば、卒業3年後の収入は男性のほうが女性よりも16%多い。そして当校のデータでは、地域別および業界別の収入格差はさらに大きい。

 我々ビジネススクールのリーダーはしばしば、多様性の向上に努めていると主張し、社説欄では企業に株価至上主義からの脱却を説く。ならば我々はなぜ、自分たちの教育成果が他者によって、性別や地域や業界の同質性を称えるような指標で測定されることを、許容し続けているのだろうか。

 さらに偽善的な点として、こうした指標を取り上げる定期刊行物の中で、我々は同時に、多様性や包摂性の美徳を唱えているのだ。

* * *

 第二次世界大戦後の数十年間、安定した国家政府と平和のおかげで、企業はみずからの繁栄を築くことができた。その繁栄の歴史に、ビジネススクールは重要な貢献をしている。

 戦中と戦後に一部のビジネススクールは、戦争に勝つため、そして数世代にわたる平和を勝ち取るために、偉大なる勇気を発揮しながら革新的な試みを実行した(例として、ジェフリー・クリュックシャンクの著によるハーバード・ビジネス・スクールの歴史を参照)。

 2020年のいま、企業に求められる使命はきわめて広範に及ぶ。必然的に、ビジネススクールも同様だ。両者とも、長期にわたる地球規模の繁栄を生むためのイノベーションを起こすことができる。

 社会はまさにそれを望んでいる。ビジネススクールのリーダーは、先達が80年前に発揮したのと同じ勇気を見せる必要があるのだ。


HBR.org原文:A Bolder Vision for Business Schools, March 11, 2020.


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