●成績の悪い部下に対しては慎重に

 通常の状況であれば、勤務評価は、マネジャーが成績不振の部下に改善を強く求める機会になる。しかし、現在は通常の状況ではない。

「成績が悪い部下がいたとしても、厳しく叱責すべき時期ではない」と、タヴィスは言う。「いま戦うべきなのはどのような戦いなのかを、意識的に選ぶ必要がある。成績が悪い部下にとやかく言うことに時間を費やすのは得策でない」

 そのような部下に関しては、「生活で何か問題が起きていないかと尋ね、問題の原因を探る」べきだと、タヴィスは指摘する。

 モーテンセンは、苦戦する部下がいても対処できるように、「システムにゆとりを設ける」ことを勧める。あなたはふだん、成績の悪い部下を要注意人物扱いしているかもしれないが、いまはその代わりに「期限つきの猶予期間」を与えて、その人物が「リモートワークに慣れて」状況を好転させるのを待つほうがよいというのだ。

「苦戦している部下に時間を与えよう」と、モーテンセンは言う。たとえば「年末くらいまで」待ってもよいかもしれない。しかし、「いつか厳しい判断をくださなくてはならない時期が来る」ことは言うまでもない。

 ●スター社員には大きな称賛を

 逆に、目覚ましい成績を残した部下がいれば、忘れずにその人物を評価すべきだ。それは、その部下が高い士気を抱けるようにするために、そして、自社がそのような人材をつなぎとめるために大きな意味を持つ。

 どんなに労働市場が冷え込んでいるときでも、「トップクラスの人材は、その気になればいつでも他社に移籍できる」と、タヴィスは言う。この機会に、「勤勉に働き、強いエンゲージメントとコミットメントを持って仕事に取り組み、ほかのメンバーを助けようとしている」人物を評価し、感謝を示すべきだ

 また、励ましと称賛は、部下の心の平安を保つうえで重要だと、モーテンセンは言う。今日の経済では、「人々は、職を失うのではないかという強い恐怖と不安に苛まれている」

 そうした部下たちが「不安に対処する」のを助けるために最善の方法は、「ある程度の確実性をつくり出すこと」だという。基準をはっきり示すようにしよう。「ある部下の成績がその人の立場を危うくするものでないのなら、本人にそれを伝えたほうがよい」

 ●未来へ目を向ける

 差し当たりリモート勤務がニュー・ノーマル(新しい常識)になることを前提にすれば、どのように部下の勤務評価を行うべきかは重要な問題だと、モーテンセンは言う。

「このような環境では、もっと小規模な勤務評価をもっと頻繁に実施する必要がある。たとえば、半年おきや四半期おきに面談を行ってもよいだろう。それにより、マネジャーは『本当に意味のあるフィードバック』を提供し、部下が『調整や目標の修正を行う』機会をつくることができる」

「(この危機を)触媒にして、成果をめぐる自社の組織文化を改められないか」と考えてみようと、タヴィスは言う。いまの状況は、「いかなる代償を払ってでも効率性と競争力の向上を追求することをやめて、レジリエンスと俊敏性を軸に据えた人間中心のマネジメントシステムへ転換する機会になりうる」というのだ。

 長い目で見て持続可能性が高いのは、このようなマネジメントシステムである。

 ●覚えておくべき原則

【やるべきこと】
・より多くの柔軟性、寛容性、共感の精神、思いやりを持って評価を行う。
・エンゲージメントを持って勤勉に働いている部下を適切に評価する。それは、そのようなメンバーの士気を高めるためにも、会社がそのような人材をつなぎとめるためにも重要な意味を持つ。
・そのような会話をするために、ビデオ会議システムを活用する。そのほうが私的で人間味のあるコミュニケーションができる。

【やってはいけないこと】
・成績の悪い部下に対して厳しい態度を取る。むしろ、そのような部下には、期限つきの猶予期間を与えて、リモート勤務に慣れて状況を好転させられるようにすべきだ。
・古い先入観が入り込むのを許す。それよりも、多様なデータを集めるべきだ。同僚や部下に、ほかのメンバーがどのようにコミュニケーションを取り、コラボレーションを実践し、ほかの人たちを助けているかを尋ねればよい。
・これまで通りにものごとを行おうとする。そうではなく、よりよい勤務評価の方法を考案するよう努めたほうがよい。現在のような環境では、半年おきや四半期おきに勤務評価を行うのが最適かもしれない。