OKRが確立されているアクセンチュアのBPOセンター

山形 アクセンチュアのBPOセンターは、OKR型のマネジメントが確立され、完全にパフォーマンスが可視化されています。各従業員の業務は「生産性」と「正確性」「納期遵守」の3つのKPIで管理され、自動的にリアルタイムでマネジャーに報告される仕組みになっています。例えば、ある従業員に作業の遅れが見られたらすぐにマネジャーのサポートが入り、一緒に課題解決に当たる。解決に時間がかかりそうな場合には、その従業員のバックログを作業が早く進んでいる従業員に回してチーム全体としての納期を担保する。こうした管理体制の下で測定された品質や生産性といったファクトをベースに、フェアな評価や改善に向けたフィードバックが行われています。

 当然のことながら、このBPOセンターも初めからこのような完全に業務が可視化された環境になっていたわけではありません。原点は組織としてのミッションであるKPIを実現するためには、そこで働く個人についてもKPI実現に向かわせる必要があり、そのためにはKPIを個人に砕いて把握する必要があるという当たり前の課題認識です。当初は、例えば生産性の面で、作業の開始・終了時刻を自己申告する形で把握するところから始まりました。その後、こうしたアナログな手法から、自己申告の手間を減らしつつ、精度向上を図る目的で、徐々にシステマティックな自動化を進め、今の完全可視化環境に至っています。

 先ほどリモートワークが進んでいる組織では女性のパフォーマンスが高いという話がありましたが、BPOセンターでも、ハイパフォーマーの女性が多いです。それを「女性は丁寧な仕事が得意だからBPOのような仕事に向いている」などと言う人もいますが、そうではなく、「完全にパフォーマンスが可視化される世界では、女性は過小評価を免れ、男性は過大評価を受けられなくなる」という捉え方ができると思っています。

 例えば、これまでは男性社員が上司と飲みに行き、上司の意をくみ取って忖度するといったことが多々あったと思います。上司自身も同じようにして昇進してきた人なら、そうした部下を過大評価する傾向があります。しかし、BPOセンターのように完全にパフォーマンスが可視化されると、こういった業務外の時間を使ったアドバンテージや社会通念の上で得られてきた男性の過大評価は剥がれ、過小評価されてきた女性は正しく評価されるようになる。どちらに有利ということではなく、フェアな世界になるということです。

植野 過大評価の象徴的な例として、性別や国籍など多様性の高いチームのマネジメントに優れている管理者と、そうではない管理者の違いについて調査したことがあります。その中で「8時間かけて100の成果を出した人と、12時間かけて100の成果を出した人のどちらを評価するか」という質問について、多様なチームのマネジメントが得意な管理者は当たり前のように前者を選ぶのに対し、得意ではない管理者の多くは後者を選ぶ傾向がありました。

 前者の方が生産性が高いのは明らかなのに「残業して12時間かけて頑張った」ことを評価している。多くの日本企業には、依然としてこういった精神論的な評価が根付いていると考えています。

山形 このような考え方は、効率的に仕事をしようという意欲をそいでしまいます。簡単な仕事でも大変そうに遅くまで仕事をした方が評価は高くなってしまい、ひいては業務フローを分析して最適化するBPR(Business Process Re-engineering)を阻む要因にもなっています。

後編では、OKR型人材マネジメントが企業にもたらすもの、そして実際にOKR型人材マネジメントに移行するために取るべき企業のアクションや進め方について紹介します。

(後編はこちら)
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/6953