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新型コロナウイルス危機により、現代の社会システムがいかに脆弱であるかを私たちは思い知らされた。今回のような危機は史上初めてのことではなく、また最後の危機でもないだろう。持続的な成長を遂げるためには、同様の危機が起きうることを前提に、レジリエンス(再起力)を高めることが欠かせない。本稿では、レジリエンスがなぜ重要なのか、どうすればそれを高められるのかを示す。


 新型コロナウイルス危機が起こり、私たちは、サプライチェーンや医療など、社会で重要なシステムがいかに脆弱かを思い知らされた。この危機を受けて、自社のレジリエンス(再起力)を高める意向を示しているリーダーは多い。しかし、具体的にどうすればそれが可能なのかを知っているリーダーは少ない。

 ビジネススクールではレジリエンスについてほとんど教えていないし、既存のマネジメントのツールも財務成績のマネジメントを目的とするものがほとんどだ。その結果、レジリエンスを高めるための設計を意識的に行い、自社のレジリエンスの度合いを評価し、さらにレジリエンスをマネジメントできている企業は、ごく一部にとどまっている。

なぜレジリエンスが重要なのか

 レジリエンスとは、状況が変化したときに、ストレスを吸収し、重要な機能を回復し、成功を収める能力と定義すればよいだろう。

 いま、レジリエンスの重要性がひときわ高まっている。ビジネス環境が激しく変化し、将来を見通すことが難しくなっているからだ。テクノロジーが進化して、グローバル経済の結びつきが強まり、さらには、不平等の拡大、動植物の種の減少、気候変動などの永続的な変化が起きていることで、ビジネスのシステムが激しいストレスと試練にさらされた結果である。

 新型コロナウイルスの感染拡大は、そうしたシステムへのストレスの典型と言えるだろう。人間が自然環境に悪影響を及ぼした結果、異なる種の間でウイルスが感染するリスクが高まっていた。都市部の人口密度の高さが初期の感染爆発を助長した面もある。国際旅行が容易になったことで、世界的な感染拡大に拍車がかかったことも見落とせない。

 一方、世界規模に広がるサプライチェーンは、コロナ禍で停止してしまった。経済活動が大幅に停滞し、経済的不平等と社会的緊張がいっそう悪化している。

 しかも、新型コロナウイルス危機のような事態は、歴史上最初のものでもなければ、最後のものにもならないだろう。SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、エボラ出血熱などの経験を通じて、感染症の世界規模の拡大がいずれ起きることは予想できていた。同様の危機は、今後再び起きると思っておいたほうがよさそうだ。

 それに、新型コロナウイルスの世界的流行をもたらした状況は、コンピュータウイルスの世界的拡散も生みやすい。気候変動や社会的緊張が生む経済的不安定も世界に広がりやすくなる。