レジリエンスの高い企業を築く

 企業は、組織のあり方と意思決定プロセスの構造を築くに当たり、以下の6つの要素を重んじて長期間持続するシステムをつくることによって、レジリエンスを獲得できる。

・冗長性:冗長性を確保することにより、差し当たりの効率は犠牲になっても、想定外のショックからシステムを守ることができる。具体的には、要素を重複させたり(同じ製品をつくる工場を複数設置するなど)、同じ目的を達成するために複数の要素を用いたり(「機能的冗長性」と呼ばれる)すればよい。

・多様性:新たなストレスに対して多様な対応策を持つことにより、標準化の恩恵としての効率性は犠牲になるものの、システムが壊滅的な打撃を被ることを防げる。ビジネスの場では、異なる経歴や資質と異なる思考パターンを持った人たちを採用するだけではなく、複数の思考法や物事のやり方が実践されたすい環境を築く必要がある。

・モジュラー性:モジュラー性を高めることにより、しっかりと統合された組織設計を採用した場合の効率性は得られなくなるが、個々の要素が破綻してもシステム全体が破綻しない状況をつくり出せる。モジュラー型の組織は、境界線のはっきりした小規模な単位に分割できるので、個々の要素の状況を把握しやすく、危機の際には素早く組み立て直すことができる。

・適応力:適応力とは、試行錯誤を通じて進化する能力のことだ。適応力を持つためには、ある程度の変化と多様性が欠かせない。自然の実験や計画的な実験を通じて多様なアイデアを獲得し、それらのアイデアをふるいにかける過程を繰り返すことにより、最良のアイデアが大々的に実践されるようにするのだ。適応力が高い企業で採用されているプロセスと構造では、安定性を高めて、変化を最小限に抑えることよりも、柔軟性と学習が重んじられている。

・慎重さ:慎重さとは、予防原則に従って行動する姿勢のことだ。要するに、あることが起きる確率が十分にあるとすれば、その出来事がいつか起きるものと考えて行動すべきなのだ。重大な結果が発生するリスクが十分にある場合は、そのリスクが現実になった際の緊急対応計画を立案し、ストレステストを行う必要がある。そのためには、シナリオ・プランニングやシミュレーション、早期にあらわれる警戒サインのモニタリング、システムの脆弱性の分析などの手法を用いればよい

・一体性:ここで言う一体性とは、企業の目標と活動が、より大きなシステムの目標や活動と一致している状態のことだ。企業は、サプライチェーン、ビジネスのエコシステム、経済、社会、自然の生態系の一部を成す存在なので、こうした一体性は、企業が長期にわたり成功し続けるために欠かせない。企業が社会と敵対して、反発を買ったり、活動を制約されたり、制裁を科されたりしないためには、自社のパーパスを、言い換えれば、社会の重要なニーズにどのように応えるかを明らかにすることが有効だ。

 このような構造型の戦略のほかには、移動型の戦略を用いることもできる。自社が取り扱う商品、事業を行うチャネル、活動する地域、ビジネスモデルなどの組み合わせを変えていくことにより、チャンスを可能な限り増やし、逆境を可能な限り減らすことを目指すのだ。

 これを実行するための最も強力な手段は、資本の分配だ。大半の企業は、さまざまな事業や部門にほぼ均等に資源を分配しているが、極端な状況に置かれたときはしばしば、もっと思い切って資源を分配し直す必要がある。

 それを行うためには、ビジネスに関する知性と頭の回転の速さを武器にして、ライバル企業に先んじて新しいリスクとチャンスに気づかなくてはならない。カギを握るのは、十分な規模と十分なスピードだ。状況が変化しているときに、新しいモデルに気づいたり、新しいモデルを試したりする企業は多いが、十分なスピードで十分な資本を投じた企業だけがビジネスの重心を変えられるのだ。

 ほかには、環境形成型の戦略もある。すでに確立されている市場に後発勢力として参入する企業にとって、ビジネス環境は所与のものとなる。しかし、新たに生まれつつある市場の開拓者たちは、ビジネスの環境をみずから形づくることができる。

 変化の激しい環境では特に、新しい可能性を思い描き、そのうえで、環境を形づくったり、説得したりすることにより、その可能性を実現させることが有効だ。そうすることで企業は、悪しきショックの影響を受けにくくなる。

 移行戦略と環境形成戦略は、単にリスクを軽減するだけにとどまらず、成功の機会を新たにつくり出し、それを活用する道を開くことができる。

 また、企業はほかのプレーヤーとの協働によってもレジリエンスを高めることができる。

 デジタル・プラットフォームのようなビジネス・エコシステムは、新しい能力を活用できる状況をつくり出し、柔軟性を向上させ、(資産をシェアできる業種では)市場参入に必要とされる固定費を削減することにより、全体のレジリエンスを高められる。実行、適応、イノベーションのための共有のメカニズムに投資することによって、予期せぬ事態に対する真の「保険」をつくり出せるのだ。