これらは採用における重要なステップだが、職場の人種的多様性を確保する闘いのごく一部にすぎない。学部の日々の運営でも、非白人が参加し、表に立ち、その意見が尊重され、発言力があることも非常に大切である。

 そこで重要になるのが、組織文化だ。人種と職場について研究する社会学者によると、企業が非白人を1~2人採用しても、彼らを一貫して敵対的かつ非歓迎的な環境に押し込めれば、さほど時間が経たないうちに辞めていってしまう。同じように重要なのは、人種的ダイナミクスに調和した組織文化をつくることと、非白人がそこに参加し、それが可視化され、本音を伝える姿勢を積極的に奨励する組織文化をつくることだ。

 たとえば本学部では、人種問題を話題にしたり、注目したりすることをタブー視して制限する「カラーブラインド」の組織文化を拒否している。本学部の講義と研究には、非白人の声と経験を含めることになっている。

「人種、民族性、移住」の講義から「ファーガソンのルーツ」という講義、W. E. B. デュボイスやアナ・ジュリア・クーパーといった黒人社会学者の著述に注目する社会学理論のゼミ、さらには投獄や警察活動などが人種的な健康格差に与える影響の研究まで、人種を認めることは本学部の重要なミッションの一部だ。

 ただし、本学部の全在籍者がこうした問題に注力しているわけではない。研究や講義の中心に人種を据えていない教員もいる。ただ、講義や研究で人種問題を二の次にしたり、過度に小さく取り扱ったりするのではなく、すべての声に耳を傾ける学部文化を育てることは必須要件と考えられている。

 本学部の「課外」活動も、このカラー・コンシャス(人種を意識する)というテーマを帯びている。たとえば、映画『ゲット・アウト』の上映会と、そこに見られる社会学的テーマに関するディスカッションを行った年もある。その翌年は、映画『ブラック・クランズマン』で同じことをやった。新型コロナウイルス感染症により春学期がなくなる前は、映画『ホワイト・ボイス』の上映会とディスカッションが企画されていた。

 こうしたイベントは、人種に関する会話を制限するカラーブラインド文化を避けて、本学部のミッションを達成する課外活動を可能にしてくれる。

 黒人が現在も搾取やハラスメントや虐待の対象になっていることを訴える「ブラック・ライブズ・マター」運動に全米が揺れる中、多くの企業はこの運動とデモ参加者への支持を表明している。だが、こうした企業のほとんどは、長年にわたり、みずからの組織の上層部における人種的多様性の実現に失敗してきた。

 米国でこうした現象が見られるのは、これが初めてではない。公民権運動時代の改革後、多くの企業は都市問題部門や地域社会関係部門を設置し、黒人マネジャーをそのトップに据えた。しかし、これら黒人マネジャーは、その後の昇進の機会がほとんどなく、包括的な変化を起こす力もほとんど与えられなかった。

 この戦略は、職場の不平等を解決できなかったし、2020年にとるべきモデルではない。企業は遅ればせながら、言葉だけでなく行動を通じて、人種的に多様な職場をつくることにコミットすべきだ。

 ワシントン大学での経験から言うと、いくつかの重要な要因が揃えば、それは可能だ。すなわち、上層部が強固かつ明示的な支持とリソースを提供し、採用と昇進で人種的多様性の確保を意識的に重視し、黒人スタッフが直面する現実を理解して対応する文化をつくることである。


HBR.org原文:We Built a Diverse Academic Department in 5 Years. Here's How, July 01, 2020.


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