マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、少しばかり懐疑的なようだ。

 完全なオフィスワークから、完全なリモートに切り替えるのは、「あるドグマ(教義)を別のドグマに取り替えるだけ」だと、ナデラは『ニューヨーク・タイムズ』紙に語っている。「もしかすると、私たちはリモートワーク中に、これまで積み上げてきた社会資本の一部を取り崩しているのかもしれない。それはどのように測定すればよいのか」

 10年後のツイッターやフェイスブックでは、現在リーダーたちが予想するほどリモートにはなっていないが、半年前に予想したよりはずっとリモートが進んでいるだろう。重要なのは、誰の予想が当たって、誰の予想が外れたかではなく、リーダーたちが、新しい仕事のパラダイムで何を達成したいと考えていて、そのためのシステムを構築できるかどうかだ。

 在宅勤務は、彼らが目先の危機を乗り越える助けにはなったが、今後長期的にはどうするのか。生産性の向上? オフィススペースや出張費の節約? 地価の安い自宅所在地に合わせた従業員の給料の調整? 士気の高まりと、従業員の定着率の上昇?

 あなたの会社にとって、今後どのようなリモートワークが「ベスト」かを知るためには、それを会社の目標に当てはめて考える必要がある。すなわち、よく考え抜いた野心を持ち、それを可能にする「従業員態勢」を考える必要がある。

 単にリモートワークを導入しているというだけでは、安定したシステムにおける「変化」とは言えない。在宅勤務とは、それ自体が多くのインターフェースと相互依存(人間と技術の両方で)を伴うシステムだ。

 たとえば、以下の要素が必要になるだろう。

・会社のシステムを機能させるために必要なテクノロジー(既存のものと、今後登場するもの)。コラボレーションや独創性や生産性のツールを含む。

・リソース(あなたの物理的なフットプリント、人、それをまとめる技術的インターフェース)と、システムを機能させるために必要なポリシー、プラクティス、プロセス。これには出張や人材開発、報酬といった人事部門の検討事項のほか、オフィスデザインやロジスティクス(リモートワーカーが暫定的にオンサイトで仕事をする必要が生じたときのデスクの確保など)といったオペレーション上の課題が含まれる。

・会社の文化や価値観を維持・向上させるために必要なルールや規範、重要指標。

 こうしたシステムは、一定レベルまでなら準備できるが、実際の運用が始まれば、細かな部分の見直しが不可欠だ。そこで、実験と学習が重要になる。一度モデルをつくったら終わりではないのだ。

 これらを正しく開発し管理するためには、イノベーションに対する新しいアプローチが必要になる。

フューチャーバック思考・計画

 筆者2人が勤務するイノサイトでは、「フューチャーバック(Future-back)」という思考法と計画法を開発した。詳細は新著Lead from the Future(未訳)で明らかにしているが、本稿ではその要点を紹介しよう。

 フューチャーバックとは、ビジネスリーダーが考えうる最高のビジョンを思い描き、それを実現するための明確な戦略を構築する方法だ。フューチャーバック思考・計画を実践すると、新しいワークシステムで何を実現したいかを明確にし、その主要要素を過去に縛られることなく、「クリーンシート」で設計できるようになる。

 ビジョンが明確になったら、それを実現するために必要なものすべてを洗い出す必要がある。そのうえで、いま始められるイニシアチブから、そのビジョンを検証していく。このプロセスは4段階からなる。