●ステージ1:あなたが理想とする未来のワークシステムを展望する

 この段階でやることは2つある。基本的なパーパスと目標(新しいシステムを設計する理由)を明確にし、そのシステムの大枠を展望することだ。

 基本的な目標(既存のシステムを見直す理由)を定義するためには、こうなったそもそもの原因である新型コロナウイルス感染症の緊急事態から学んだことを考えるといいだろう。まずは今後の方向性を明確にすることだけを目指し、詳細を決定しようとする必要はない。

 未来の従業員態勢を思い描くにあたり、それをパーパスと目標に基づくナラティブとして構成してみよう。

 これは、あなたのビジョンだ。したがって以下の要素を含むべきだろう。あなたのパーパス(インスピレーションを与える究極の「なぜ」)、目標と指標(具体的な「なぜ」)、そしてそのシステムの構成要素とその仕組みに関する簡潔な説明(具体的な「何」)。

 たとえば、次のようなものだ。

「2022年までに、極めてモチベーションの高い人材を世界中から採用するために、クリエイティブ系従業員の50%を、労働時間の最大50%までリモートワークとする。従業員はホームオフィスと出張について完全な補償を受け、報酬は現地の物価水準を反映する」

 システムに移る前に、リソースと資産について自問しよう。

 あなたのシステムを構成するのはどのような人たちで、どこに居住することになるのか。さまざまな機能をどのようにまとめ、どのように動かすのか。あなたの物理的なフットプリントはどのようなものになるのか。

 どのようなリモートテクノロジーとツールが必要になり、それを対面ツールやテクノロジーとどように組み合わせて、個人の生産性を確保し、有効なバーチャルコラボレーションを実現するのか。

 同じような質問をポリシーとプロセス、規範、指標についても投げかける必要がある。

 ●ステージ2:暗黙の思い込みと明らかな思い込みを検討する

 ドナルド・ラムズフェルド元米国防長官が言ったように、世の中には既知だとわかっていることと、未知だとわかっていること、そして未知だとわかっていないことがある。

 それぞれをよく考えて、既知と未知の不確定要素をできるだけたくさん洗い出しておこう。そのうえで、それぞれを立証または反証する必要がある。

 たとえば、バーチャルに集まったチームは、対面で集まったチームと同じくらいうまく問題を解決できるのか。エグゼクティブの能力開発は、オンラインミーティングでも対面ミーティングと同じくらいうまくできるのか。

 ●ステージ3:ビジョンを試してみる

 何を学習する必要があり、どうすれば一番うまくできるのか。この問いに答えるためには、自分のビジョンとその主な前提を現在の設定に戻して、実験という形で見直す必要がある。システムが動く環境やコンテクストが複数あるなら、複数の実験が必要だろう。

 たとえば、あなたの会社が、社会規範や政府による規制が異なる複数の地域にある場合、あるいは根本的に異なるビジネスユニット(サービスや製造が中心の部門と、知識労働やデザインが中心の部門など)からなる場合がそうだ。人によっても違う。在宅勤務は、一部の職種や性格の人にはぴったりかもしれないが、そうでない職種や人もいるだろう。

 あなたの会社が多国籍企業で、特定の国や地域で在宅勤務がうまくいくかを知りたい場合は、一部の機能や小さな部門を選び出し、在宅勤務のテクノロジーやプラクティス、ルールと規範を体系的に適用してみよう。短期間だけ通常のオペレーションと並行して実施してみて、その結果を、より大きなユニットと比べてみよう。

 ●ステージ4:実験から学んだことに基づき、システムの構成要素やビジョンを調整する

 この探索、展望、実験のプロセスを繰り返すことにより、最終的には前進するための最高の方法が見つかるだろう。こうした学習は継続的なプロセスであり、仮説が知識に転換されていく過程で時間をかけて展開していくものだ。

 そこでは必然的に、折り合いをつけるべきトレードオフが必要になるだろう。世界各地で有能な人材を確保すれば、新人に異動を強いずにコストを削減できるかもしれないが、クリエイティブなエコシステムはばらばらに広がったものになるはずだ。なかには、1週間に数日は物理的に集合する必要に迫られるチームもあるだろう。その場合、メンバーは好きなところに住むわけにはいかない。

 新しい知識を組織全体に適用する前に、技術面と人材面での強化が必要な場合もあるだろう。従業員の自宅の通信環境を整備するためにかなりの投資が必要になり、期待したほどのコスト削減はできないかもしれない。初期の実験から、新しい在宅勤務システムは、すべての事業部門や地域でできるわけではないことが明らかになるかもしれない。

 あるコンテクストで良好な結果を生み出したものが、別のコンテクストでは同様の結果をもたらさない「因果関係の曖昧性」に直面する可能性も高い。また、どんな組織にも吸収力には制約がある。

 システム的な不一致や拒絶反応に直面する可能性も覚悟しておかなくてはいけない。それは事業部間のコミュニケーション不足や言語の違い、長年にわたるライバル関係や不和に由来する可能性もある。