CSV(共通価値の創造)の実践
今号はオムロンの山田義仁社長、前号の9月号は日本電産の永守重信会長にご登場頂きました。両社の共通項は、過酷な経営環境の第1四半期(4-6月期)に増益と、収益力が高いことです。
PER(株価収益率)は前者が94倍、後者が51倍で、株式市場は収益の成長性も高く評価しているようです(東京証券取引所1部上場での分析会社1430社の平均は19倍、電気機器分野157社では30倍。8月29日現在)。特集テーマは異なりますが、高い収益力や成長性の理由は各号の記事で著しました。
両社のトップをインタビューしたいと思ったきっかけは、2019年12月号の特集「信頼される経営」の冨山和彦氏の論文「企業の信頼はガバナンス経営から始まる」です。
その論文に、厳しい経営環境を生き残る上で不可欠な、タフな経営トップがいる企業として、両社が出てくるのです。創業経営者が試練を何度も乗り切ることで鍛え上げられた例として日本電産、同様の資質を備える人を社長指名諮問委員会で選んだ会社としてオムロンが言及されています。
オムロンは、的確なリーダーを選任する一方、不適格と判断された場合には解任する仕組みがあり、そうした制度設計と運用が重要である、というのがその論旨です。
また、オムロンが昨秋、高収益の車載部品事業を日本電産に売却したことも強い関心事です。自動車のCASE(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動)化が今後進み、車載電子制御ユニットが約70から3つ(動力系、車内電装系、情報系)に集約されるという産業動向の見通しの中、スーパーティア2(完成車メーカーに納入する1次サプライヤーに対して、競争力のある部品等を納入する2次サプライヤー)等となって生き残ることを真剣に検討した結果のようです。両社の長期的かつ論理的な経営思考が背景にあります。
特集テーマである「パーパスをどう企業経営で実践するか」についても、オムロンは、システマチックになっていることが感じられるかと存じます。「企業の求心力を創業家から企業理念に転換する」から、「強い企業になり、理念の実践を持続可能にする」まで、論理性や制度設計に確固たるものがあります。
創業者の立石一真氏が理念を実践し続け、企業文化となるまでに社会貢献意識を会社に浸透させたことがベースにあるのでしょう。
他の企業でも可能なのでしょうか。特集では、前述しました前ペプシコ会長の論文「パーパスの持つ力を伝統企業に浸透させる法」で示されています。オムロンのような企業文化がない既存の大企業を、いかにパーパスドリブン企業に変えたかの制度設計論です。しっかりした制度と運用が実現すれば、変革できるのです。
オムロンもペプシコも、社会貢献のパーパスをもとにしたドリブンとする経営ですが、これは言わばCSV(共通価値の創造)の実践です。「社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的価値が創造されるというアプローチ」とCSVを説明する論文「共通価値の戦略」(本誌2011年6月号掲載)は、「資本主義は危機に瀕している」という一文から始まり、今日、パーパスが注目される状況と似ています。
この論文の筆者の一人、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授による新しい共著論文が、今号の巻頭です。米国の政治制度の機能不全を分析し、その克服法を論じています。健全な競争があり、より良い政策を国民が選択できる機能を回復するための、制度設計論と読めます。米国という国のパーパスは、自由と民主主義と資本主義を守ることであって欲しいと思います。大統領選挙と連邦議会議員選挙の行方がとても気になります(編集長・大坪亮)。