筆者らは、2008年の大不況直前の時期以降のデータを検討し、5278社の株式上場企業の成績を調べた。具体的には、マイケル・ポーターの理論を参考に、純粋な差別化戦略を採用した企業と、純粋なコスト・リーダーシップ戦略を採用した企業の成績を比較した。

 差別化戦略とは、価格を抑えることを最優先にするのではなく、品質やサービスなど多くの要素で競争をする戦略のこと。それに対し、コスト・リーダーシップ戦略とは、コストの削減を通じて、可能な限り安価で商品を提供することを中心に据える戦略だ。

 ポーターによれば、いずれの戦略でも、純粋に追求すればうまくいく。しかし、私たちの分析によれば、差別化戦略の企業はコスト・リーダーシップ戦略の企業に比べて、大不況で売上げに大きなダメージを被った確率が大幅に高く、廃業に追い込まれる確率も大幅に高かった。

 コスト・リーダーシップ戦略を実践するのが賢明だと思ったかもしれない。実際、差別化戦略からコスト・リーダーシップ戦略に転換することは、ある面で理にかなっている。景気後退期には、誰もが支出を引き締めようとするからだ。厳しい景気後退であれば、なおさらその傾向が強い。

 消費者は支出を減らし、より安価な業者を探そうとするし、企業も難局を乗り切るために、支出を減らそうと努める。2008年や現在のように予測不能な環境では、コスト削減が大半の企業にとって主たる関心事になる。

 しかし、私たちのデータによれば、景気後退期にコスト・リーダーシップ戦略へ転換することが良策だとは言えない。差別化戦略を採用していた企業がコスト・リーダーシップ戦略に移行しても、好ましい結果になっていないのだ。戦略を変更しても、景気後退を生き延びる確率が高まったり、売上げが伸びたり、財務が改善したりはしないとわかっている。

 この点は、大不況の経験から学ぶべき教訓だ。景気後退期には、コスト・リーダーシップ戦略を追求してきた企業が有利になる。そのような時期には、いずれのタイプの企業も生き残りのためにコストを抑えて、価格を安くすることにより、価格に敏感な消費者を引きつけようとする。

 元々コスト・リーダーシップ戦略を実践してきた企業は、このようなアプローチを追求するのに適した体制を確立できている。これは、ポーターも指摘していたことだ。コスト・リーダーになることを競い合うとすれば、その競争に勝つのは必ず、以前からコスト・リーダーシップ戦略を実践してきた企業だ。

 では、差別化戦略を実践してきた企業は、どうすべきなのか。私たちの研究により、景気後退期に差別化戦略の企業が参考にすべき、具体的な教訓がいくつか見えてきている。